国立感染症研究所(国立感染研)と日本医療研究開発機構(AMED)は7月6日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)回復者における中和抗体の質が時間とともに向上することを発見したと発表した。

同成果は、国立感染研 治療薬・ワクチン開発研究センターの森山彩野主任研究官、同・高橋宜聖センター長、同・安達悠主任研究官、国立感染研 抗体検査チームの鈴木忠樹チーム長/部長、東京品川病院の佐藤隆研究センター長、同・新海正晴治験開発・研究センター長らの共同研究チームによるもの。詳細は、免疫学を扱う学術誌「Immunity」にオンライン掲載された。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の一部の変異株は、回復者やワクチン接種者が獲得する中和抗体から逃避するというデータが相次いで報告されており、今後のワクチン戦略にも影響を与える可能性が指摘されている。

共同研究チームはこれまで、抗体応答が時間とともに変化し、抗体の質が改善される「親和性成熟現象」を長年にわたって研究してきた。多くのウイルス感染やワクチン接種で誘導される抗体は、時間が経過するにつれて各抗体のタンパク質をコードする遺伝子に変異が入っていくことで、抗原に対する結合親和性が高い抗体が選択されるようになり、血液中の抗体の結合親和性が時間とともに増加していくというものだという。

今回の研究では、新型コロナからの回復者における親和性成熟現象を確認すべく、回復者188人の中和抗体についてその量と質を発症後10か月まで経時的な解析を実施。

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    国内の新型コロナ回復者を対象とした免疫研究の流れ。異なる重症度の回復者から、経時的に採血を行い、中和抗体の量と質の解析が実施された。すべての回復者は、国内で最初に変異株が検出された時期より前に発症していることから、従来株に感染したと考えられるという (出所:AMED Webサイト)

従来株のスパイクタンパク質の宿主レセプター結合領域(receptor binding domain:RBD)のみに結合する抗体と変異株RBDにも結合する抗体の時間推移の比較を行った結果、新型コロナの重症度に関わらず変異株RBDにも結合する抗体は減衰速度が緩やかであり、持続性に優れていることが明らかとなったという。

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    新型コロナからの回復者は、変異RBDに結合する抗体を獲得し長期的に維持することが判明。変異株由来のRBDタンパク(K417N/E484K/N501Y変異を有する)を使用することにより、従来株のみに結合する抗体と変異株にも結合する抗体が別々に定量された。各抗体の経時推移を比較すると、変異RBDにも結合するIgG抗体の減衰率が低く、持続性に優れていることが明らかとなった (出所:AMED Webサイト)

加えて、抗体あたりの中和活性(中和比活性)と交差性(変異株に対する中和比活性)が経時的に増加することも判明したという。

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    変異株への中和抗体比活性と交差性は時間とともに向上することが確認された。変異株(P.1:ガンマ株)に対する中和抗体の質(中和比活性・交差性)の経時推移を採血1回目(T1)と2回目(T2)の検体間で比較が行われた (出所:AMED Webサイト)

これは、ヒトの免疫系は変異株にも適応力のある質の高い抗体の比率を時間とともに高めることが可能であることを示す結果だという。

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    中和抗体は総量が減衰する一方で、その質は経時的に向上するという今回の研究成果の概念図。黒は従来株のみに結合する抗体、赤は変異株にも結合する抗体が示されている (出所:AMED Webサイト)

なお、研究チームでは、この変異株にも結合する抗体は、ワクチンで誘導する標的抗体、あるいは抗体医薬としての利用価値があると考えられるとしている。