日立製作所(日立)と三井化学は6月28日、日立が開発した人工知能(AI)を活用したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)技術を実際の新材料開発に適用する実証試験を開始すると発表した。

なお両社は、同実証試験に先立ち、日立の開発技術を三井化学が提供した過去の有機材料の材料開発データで検証した。その結果、高性能な新材料の開発に必要な実験の試行回数が従来のMIと比較して約4分の1に削減され、開発期間を短縮できることを確認したという。

材料科学分野では、環境負荷の少ないプラスチック素材などの材料需要の多様化に応えるため、AIやシミュレーションなどの技術を用いて新材料の研究開発効率を向上するMIの活用が期待されている。MIにより、素材の配合比率や製造条件(温度や圧力など)といったデータを解析し、高性能な材料を作るための最適な配合量や製造条件を推定することができるという。

一般に、有機材料開発においてMIを適用する場合、その化学式は文字情報でありAIでは容易には扱えない。そこで、化合物の構造や特性を数値化して記述子で表し、これらの記述子からAIに材料性能を予測させる手法が知られている。しかし、この記述子は容易には化学式に逆変換できないため、従来は有識者がAIの予測性能値をもとに大量に提示された化学式の中から有望と思われるものだけを選別し、それらの候補を実験して材料性能を評価することで、新材料の化学式を特定する方法が取られてきたという。

  • 少量の実験データでも高性能材料の化学式を自動生成できる深層学習技術

今回、日立が開発したMI技術では、大規模なオープンデータで学習したAIの内側に、実験データで学習したAIを埋め込む「入れ子型構造」を採用しており、少数の実験データしかない場合でも新材料開発に活用することが可能。

また同技術は、成分調整という方式をとっており、高性能な化合物の生成を加速できるという。具体的には、外側のAIで文字情報である化学式を一度数値情報に変換し、内側のAIでこの数値情報から性能に影響する成分を分離・調整することで、高性能な化合物を表現する数値情報を新たに作る。それを再び化学式に変換し直すことで高性能な化学式を高確率で生成し、実験回数を削減可能とのこと。

日立は今後、今回開発したMI技術の実用化を目指し、同社独自のIoT基盤「Lumada」ソリューションとして提供している「材料開発ソリューション」へ適用する方針だ。