セメントや樹脂などの接着成分を使わず、触媒で砂同士を直接つなげて建材を開発した、と東京大学が発表した。ありふれた砂や砂利など、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする材料が使える。実用化すればコンクリートの原料不足の課題を解決するほか、低温でできるため製造時のエネルギー消費の抑制にもつながるという。

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    原料の砂と作り出した建材。珪砂(けいしゃ=左)と砂漠の砂(東京大学酒井雄也研究室提供)

建材などとして広く普及しているコンクリートは一般に、砂と砂利に、「つなぎ」の役目をするセメントと水を加えて製造する。ただ適したサイズの砂や砂利、セメントの主原料である良質な石灰石の不足が世界的に課題になっており、長期的に建築や土木工事への影響が懸念されるという。またセメントの製造では二酸化炭素(CO2)が多く発生する。枯渇しない原料を用い、少ないエネルギーで製造できる建材が求められている。

こうした中、東京大学生産技術研究所の酒井雄也准教授(コンクリート工学)は次世代の建材開発を研究。アルコールに触媒の水酸化カリウム(KOH)を溶かした液体に砂を入れ、密閉容器内で240度まで加熱した。その後に室温まで冷却することで、人工の硬い石を作ることに成功した。セメントのようなつなぎを使わず、加熱により砂の化学結合をいったん切断し、冷却することで砂に別の結合をさせる仕組みだ。珪砂(けいしゃ)、ガラス、砂漠の砂、月の砂を模擬したものなど、SiO2を主成分とする材料から硬い石を製造できた。

セメントの製造工程では1450度という高温を要する。また砂自体を溶かしてくっつける方法でも1000度以上が必要で、大きなエネルギーを使うことになる。これに対し、この技術では大幅な低温化に成功した。製造後に残るアルコールと触媒は繰り返し使える。

コンクリートに比べ耐久性が高い半面、強度は現状では半分ほど。ただ今後、触媒の種類や量、砂粒の大きさ、加熱時間や温度などの工夫を通じ、強度を高められるという。加熱温度のさらなる低下も目指して研究を続ける。

SiO2は多くの砂や砂利の主成分であるほか、廃ガラスなどにも含まれる。この技術を使えば球状で小さい砂漠の砂など従来、コンクリートの材料としては使えなかった砂や砂利も利用でき、資源の枯渇が避けられるという。月や火星の砂の主成分でもあり、将来的にはこの方法で建材を現地調達して天体表面の基地建設に利用することも考えられるという。

酒井准教授は「世界的に懸念が高まっていく建材の原料不足の解消に役立ち、エネルギー消費を抑えCO2排出を削減できる。宇宙開発にも貢献するなど大きな役割を果たし得る技術だ」と述べている。成果は東京大学が14日に発表した。同大生産技術研究所研究速報誌「生産研究」に5月1日に掲載される。

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    ガラスビーズを使った場合。下の顕微鏡写真では隙間が目立つが、隙間なくくっつけることもできる(東京大学酒井雄也研究室提供)

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