東映アニメーション(東映アニメ)とPreferred Networks(PFN)は3月12日、アニメ制作においてAI技術を活用する共同実験を実施したと発表した。両社によると、PFNの深層学習による画像変換技術、セグメンテーション技術などを活用することにより、背景美術クリエイターが画像の前処理工程に要する時間を約83%短縮することができたという。

  • 背景美術制作ツールScenifyのAdobe Photoshop用ユーザーインタフェース(UI)

東映アニメは、1956年の創立以来60年以上にわたり、演出、作画、美術などの技法で独自の伝統を積み重ねてきている一方で、CG・xR・AIなどの最新のデジタル技術による映像表現にも挑戦している。PFNは機械学習・深層学習などの最先端技術の実用化を目指しており、イラスト・アニメ・ゲームなどのクリエイティブ産業向けにも、キャラクター生成、イラスト自動着色、高精度3Dスキャンなど、制作手法の革新に向けた技術開発を行っている。

今回の共同実験では、東映アニメの新規IP研究開発チーム「PEROs」が2020年2月に公開した、佐世保市を舞台にした実験映像『URVAN』(ウルヴァン)の背景美術制作に、PFNが開発するアニメの背景美術制作支援ツールScenify(シーニファイ)が活用された。

  • 「URVAN」における背景美術の制作工程

同作品では、実在する佐世保の風景をアニメ調・サイバーパンク調の2つの画風で表現し、現地で実際に撮影された風景写真からScenifyでアニメ調の背景素材に自動変換した。これにより、美術クリエイターが画像の前処理工程に要する時間を約83%カットできたという。

  • 素材写真

  • Scenifyによる変換結果(アニメ調)

  • 東映アニメ美術スタッフによる最終レタッチ結果(サイバーパンク調)

Scenifyは、同作品で制作した背景美術の約3分の2に使用されているが、これにより、美術クリエイターは作業負担・工数を削減することができ、クリエイティブの自由度・振れ幅が大きいサイバーパンク調の背景制作により多くの時間を充てることが可能になったとしている。

また、Scenifyの開発では、背景美術の制作に必須となる、背景画像からキャラクターに接する部分・手前にくる部分(BOOK)を自動的に切り出す「BOOK分け」機能、画像の一部を除去した後の空白を自然に塗りつぶす「スマート塗りつぶし」機能、さらに、Scenifyをクリエイターの制作ワークフローに組み込みやすくするためのプロトタイプUIの開発も実施したという。

PFNは今後、東映アニメにおけるTVアニメーション・アニメ映画などのアニメ作品制作にScenifyを適用することを目指し、さらに機能開発を進める方針だ。