中小企業は大企業に比べて、テレワークが導入しにくいと思います。今後、両者の格差はさらに広がるでしょうか?

志賀氏:中小企業と大企業におけるテレワークなどの柔軟な働き方の格差は広がると思います。中小企業はITの効果を信じていない、もしくは信じようとしない傾向があります。その理由として、ITツール導入が膨大な投資になるといったことも考えられます。IT投資に対するコストの負担が非常に大きい。また導入だけでなく、従業員に対してITスキルの教育も行わなければなりません。

また、ITツール導入やテレワーク実施後の効果を客観的に証明できるデータがないと、動けないといった中小企業の経営者も多く、そういったことが格差を広げる要因になるでしょう。政府がテレワーク推進のために補助している50万円では足りないですが、低コストのSaaSも出てきています。それらを上手く選別し導入していく中小企業が生き残っていくと思います。

ITツール導入やテレワークを実施したからといって、すぐに生産性の向上を実感することは難しいです。逆に、一時的に必ず生産性は低下すると思います。その後に2倍、3倍と生産性を上げていくシナリオを経営者が描く必要がありますね。

リアルなオフィスのあり方は今後変化するでしょうか?

志賀氏:フリーアドレス制度や目的に合わせたワーキングスペース構築を検討・導入する企業は今後さらに増えると思います。テレワークに関しても、フリーアドレス制度と組み合わせないとあまり意味がないと考えています。この2つの制度はセットで実行しないとうまく機能しません。物理的なオフィススペースは全社員の60%程度を用意すればよいというデータもあります。

しかし、フリーアドレス制度を導入する上で、3密を回避するソリューションを導入することは重要です。オフィススペースを削減する分、従業員が一カ所に密集しないようにしなければなりません。

例えば、社員の居場所をデータやグラフとして可視化したり、デスクや会議室の予約システムなどを導入したりするなど、ITツールでソーシャルディスタンスを管理する制度の導入が、今後しばらくは主流になると思います。

フリーアドレスはコスト削減以外にも生産性の向上につながるのでしょうか?

フリーアドレスのスペースのコスト削減以外の大きな目的は、従業員同士の化学変化です。フリーアドレスによる部署を超えたコミュニケーションによって、イノベーションにつながることがあります。

一方でフリーアドレスでは、自由であるがゆえに結局、自席が固定化してしまうといった懸念点があります。それを解決するために、最近では、ランダムに座席を決めるといったフリーアドレス管理システムを提案しているベンダーもあります。毎日くじ引きのように席を決めることにより、普段はかかわらない社員同士のコミュニケーションを促進しイノベーションにつなげることができます。

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まりを見せませんが、企業は2021年、どのようなことに注力すればよいでしょうか?

従業員のニューノーマルに求められるスキルの向上が喫緊の課題だと思います。ITの活用により、わざわざ出勤しなくても効率的に業務をこなせることや、感染リスクを下げられることに気がつきました。しかし、様々なITツールが多くの領域に展開されつつある中で、社員のITスキルが追いつかなくなっていきます。従業員のITスキルを底上げすることが、非常に大きな課題となっています。

また、従業員個人のスキル向上だけでなく、企業文化も変革していかなければなりません。文化は後から自然に形成されるかもしれませんが、やはり意識的に制度を変えていかなければなりません。文化だけでなく、働く場所の多様化に合わせたデジタルワークプレイスの構築を進めるなど、文化に適した環境を整えることも重要です。今後さらに、柔軟な働き方に向けた見直しが実施されるでしょう。