東芝は10月19日、2020年度第4四半期より、国内外での量子暗号通信システムのプラットフォームの提供およびシステムインテグレーション事業を順次開始すると発表した。執行役上席常務の島田太郎氏は、量子暗号に関するビジネスモデルは2つあると述べた。

  • 東芝 執行役上席常務 島田太郎氏

1つは、 量子暗号通信システムインテグレーション量子暗号通信システムインテグレーションで、専用光通信回線を使用する顧客向けに量子暗号通信 システム一括納入し、運用・保守サービスを提供する。 国内では東芝デジタルソリューションズ社が事業を展開し、 海外では地域のパートナーと共同で事業を展開する。

  • 量子暗号通信システムインテグレーションの概要

国内では、 東芝デジタルソリューションズが情報通信研究機構より実運用環境下における複数拠点間の量子暗号通信実証事業を受注。2020年度第4四半期に量子暗号通信システムを納入し、2021年4月に実証事業を開始する予定としている。量子暗号通信システムインテグレーション事業として、同社初の案件だという。

海外では、英国政府研究開発機関で量子暗号通信を実用化するBT Group plcと共同実証試験を9月16日から開始しているほか、米国でQuantum Xchangeと共にVerizon Communicationsが9月3日に公表した量子暗号通信トライアルに参加している。2021年度以降は、欧州、アジアの主要国でも現地事業パートナーとともに量子暗号通信システム事業を推進する予定としている。

もう1つのビジネスモデルは量子鍵配送サービスで、公衆光通信回線網の上に量子鍵配送網を構築し、量子鍵配送サービスをサブスクリプション提供する。具体的には、量子鍵配送システムと量子鍵配送レイヤを 量子鍵配送サービスのプラットフォームとして展開する。

同サービスは2025年度までに本格的に開始する予定だが、それに先立ち、英国ケンブリッジに製造拠点を置き、2020年度第3四半期より特定ユーザー向けのサービス提供を開始する。

  • 量子鍵配送サービスの概要

また、2種類の量子鍵配送の装置の開発も行われている。1つはデータ通信用光ファイバーを共有する「多重化用途向け」のもので、もう1つは鍵配送の速度と距離を最大化した「長距離用途向け」のものだ。これらの装置は、将来的に、大都市圏(複数顧客、海外)向けに拡張されることが計画されている。

  • 量子鍵配送の装置の概要

島田氏は、世界の競合他社が提供している量子鍵配送の装置のベンチマークを引き合いに出し、同社の装置が「鍵共有速度」「最大距離」のいずれにおいても優れていることをアピールした。ちなみに、2019年の量子暗号関連の特許数においても世界一だったという。

  • 世界の量子鍵配送の装置のベンチマークの結果

島田氏は、同社の技術について「量子暗号には高度な制御が求められるが、この技術はわれわれにとって差別化要素となる。今後は、高速かに安定して量子を検出できる技術に注力していきたい」と語っていた。