契約に押印・割印は法的な要求なし!
アドビは7月28日、Adobe Signを中心とした電子サインの活用を語るオンラインセミナー「電子契約の虎の巻」Adobe Signでスピーディーな承認作業を実現」がアドビ インストラクターの大倉壽子氏を講師として開催した。
コロナ禍の中、急遽テレワークを導入した企業を対象としたアンケートでは、2月時点で64%以上が紙書類の確認や捺印などのためにやむなく出社したことがあるという。こうした状況を受け、政府としても商業登記に基づく電子証明書の発行請求制度を3月に変更したほか、4月から行政手続きについてデジタル化の前倒しが検討されるなど、押印による無駄を省こうという流れができているところだ。
セミナー冒頭では、こうした現在の状況の紹介に加えて、アドビが最近開催している電子契約に関するセミナーでも非常に多くあがる質問事項に対する回答として、契約の基本的な考え方が解説された。
「契約書に押印がなくても法律違反にはならないのか、という質問が非常に多くあります。契約は当事者の意思の合致により成立するので口頭のやりとりでも成立はします。ただ、言った言わないという裁判の焦点になることがあるので、証拠として署名をするのが商取引のルールになっています。書面の作成や押印や契約にあたって必要なものではなく、互いに納得しているのであれば有効性に問題はありません」と大倉氏は語り、メールやチャットを利用した契約も法的に問題のないことを強調した。
社内と社外に分けて導入、認め印回覧はAcrobat DCからも利用可能
従来からの商習慣を変更することの難しさや、ITリテラシーの低い人までを含めた運用の難しさなどから電子契約の導入はこれまでなかなか進まない状況にあった。しかし、法的な規制緩和やクラウドサービス利用の一般化、コロナ禍の中でのBCP対策、働き方改革と業務効率化といった要素が組み合わさったことで現在は改めて見直されている状態だ。
そうした中、導入しやすくするためにはプロセスを主に社内承認での使い方と、社外との契約での利用に分けることが有効だという。
「すぐに法的有効性を必要とするようなハードルの高い運用方法はなかなか取り入れづらいと思います。三文判や認め印については、Acrobat DCのスタンプ機能で対応できます。契約書については社判が必要だったり法的有効性が必要と考える人も多いので、その場合は電子サインのソリューションであるAdobe Signを利用してください」(大倉氏)
セミナーではAcrobat DCに内蔵されているAdobe Signの限定的な機能を利用することで、タイムスタンプ等を含めた電子的なスタンプの利用だけでなく、手書きサインや印影画像を利用してPDFファイルに押印を行い、フローに沿ってメールで回覧できることがデモンストレーションされた。この回覧押印機能は、アドビが開催する電子サインのセミナーで100%出ている質問だという。
「あくまでもここで登録する社判や印影は、それが正式な本人性を担保するものではありません。スタンプが押されているというイメージ画像を配置するだけです。ですが、ハンコを押すことは契約書に必要であるわけではありません。押してあるということを必要とするのであれば、画像として印影を用意する、またはスタンプ機能を利用してログインコードとタイムスタンプを利用することでも、十分フローとしては運用できるわけです。相手に送って契約書として使いたいという場合でも、スタンプを利用し、その後にファイル自体をセキュリティをかけて改ざんできないようにしてしまえば、改ざんできないということで双方が納得すれば契約書としても利用可能です」と、大倉氏は合意の形成さえできるのならば、契約書にもこの手軽なスタンプ機能が活用可能であることを紹介した。
電子サインの法的有効性を決めるポイント
電子サインに求められているのが「本人性」と「非改ざん性」だ。電子帳簿保存法にも対応したいのならば、これに「真実性」と「検索性」という要素が加わる。
Adobe Signではログを保存することで、文書の作成者や送受信者、署名を行った日時といった記録が保持される。またメールアドレスとIPや電話番号認証を組み合わせた本人性の確保や、誰がどのような処理を行ったのかを記録することによる非改ざん性の保証が行えるため、証跡となるデジタル文書の作成が可能だ。文書のやりとりをクラウド経由で行うことで、ファイルの利用状況やアクセス状況が用意に管理でき、法的有効性を持たせられるようになる。
「Adobe Signでは2つの法律に対応します。法的有効性がどのように関わってくるのかは、これを充たすか否か。本人性と非改ざん性を充たしていれば、電子サインの法的有効性が認められます。営業契約や注文など、証跡を残して互いに保管できるものとして電子サインが使えます。より高い法的有効性を求められる文書は、認証局を用意し、第三機関が発行した証明書を添付することで運用できます。ですがまずはフローとして使うのであれば、電子サインという広い運用方法でも十分商取引に利用できます」と大倉氏は語った。
まだ法的な規制が残っているためすべての契約書で利用できるわけではないが、多くの状況で利用可能だという。
「Adobe Signで利用可能なものとしては、営業関連や秘密保持の契約、コンテンツや技術のライセンス契約、調達関係、雇用関係などに非常に有効です。一方、交渉や登記の手続きが必要なものは法的な運用が進んでいないので、従来型での対応になります。しかしこれからさまざまな手続きが電子化して行く流れがあるので、このあたりも変わって行く可能性があります」と大倉氏は有効性を語った。
手軽ながら複雑なフローにも対応
Acrobat DCで利用できるAdobe Signの機能は、基本的に1対1での利用になる。先に紹介いた回覧承認機能も、1人ずつが捺印して行く流れだ。複数人での利用や複雑な流れが必要になる場合には、複雑なフローにも対応できるAdobe Signを利用することになる。しかし利用方法は比較的簡単だ。セミナーではPDF上にテキスト入力や手書き等で署名を行い、相手にも指定カ所への署名を求める流れのデモンストレーションが行われた。
また、PDFの信頼性の高さ、国内データセンターを利用している安心感といった安心・安全面についても語られたほか、APIが無償公開されていることでOffice 365をはじめとする各種業務系クラウドサービス等との連携利用もしやすいと強調された。
2つのライセンス種別
Adobe Signは、署名を依頼する側だけがライセンスを保有していれば、依頼された側はブラウザとメールの利用環境さえあればライセンス不要で対応できる。また、依頼側としてもライセンス形態が1ユーザーごとにトランザクション数が設定されている「ユーザーライセンス」型と、組織としてトランザクション数がまとめて設定される「トランザクションライセンス」が用意されており、利用状況に合わせた選択が可能だ。
「Adobe Signでは、合意の証跡を残す、情報の収集や記録、業務システムと併せた運用をすることができます。電子サインの本人性や証跡を残すといった改ざん防止の部分はもちろんのこと、さまざまな業務のフローの中で利用できるのです。システム連携でも活用できることで、一気通貫でデジタル化することによってBCPでも非常に有効です」と大倉氏は改めて有用性を語った。
現在のコロナ禍の中、経験した不便さを解消するものであり、今後のビジネス展開や業務効率化においても非常に有用な電子サインだが、セミナーの最後にはその導入にあたって考慮すべきポイントも指摘された。
「対象業務やフローは従来のものの中から着手できます。IT部門やユーザー部門と連携して導入するといいでしょう。承認や署名プロセスの電子化には社内の押印規定や承認規定の変更をする必要があるので、運用フローは少し考えてください。導入時には、IT部門だけで導入するのではなく、実際に使う側から代表者を決め、どのようなフローが最適なのかなどぜひ相談して欲しいですね」と大倉氏は語り、アドビからの情報提供も積極的に行うことを紹介した。