新型コロナウイルスの影響で、教育の現場でもオンライン授業の需要が急速に高まり、待ったなしでIT化の波が押し寄せている。また、緊急事態宣言が解除されたものの、新型コロナウイルスの感染者は増加の一途をたどっており、また長期にわたり休校となる可能性もある。
こうした中、教育の現場では、義務教育を受ける児童に1人1台端末を与え、学校に高速大容量の通信ネットワークを整備することで、公正に個別最適化され、 資質・ 能力を育成 できる教育環境を実現するため、文部科学省が推し進めている「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」の取り組みが進んでいる。
自治体や教育機関はGIGAスクール構想をどのように活用して、教育改革に取り組むべきなのだろうか。今回、GIGAスクール構想関連のビジネスを手掛けるソフトバンク 法人事業統括 法人プロダクト&事業戦略本部 公共事業推進室 事業企画部 教育ICT推進課 担当部長の田中光太郎氏と課長の澤田大輔氏に話を聞いた。
子どもの成長をサポートするため、導入後のサポートを重視
田中氏はGIGAスクール構想の現状について、「企業にたとえるなら、自治体の課題を解決する大きな事業改革と言えます。ただし、企業とは異なり、ITから遠い学校がGIGAスクール構想のステージとなります。文部科学省などから、短期間でやまほど情報が落ちてくるので、自治体は対応に追われています」と話す。
一時は新型コロナウイルスの影響で、端末などの納品が遅れているという話もあったが、国を挙げて取り組んでいることもあって、機器の在庫は大分落ち着いてきたそうだ。
澤田氏は、ソフトバンクのGIGAスクール構想に対するスタンスについて、次のように語る。
「ソフトバンクグループではもともと、グループ会社のSB C&SやClassiと共に、教育事業に取り組んできました。また、人型ロボットであるPepperを800以上の学校に導入してきた実績もあります。GIGAスクール構想については、モノを売るだけではいけないと考えています。あくまでも、子どもの成長につながらなくてはならない。そのため、機器やソフトウェアを販売した後もサポートしていくことに重きを置いています」
実のところ、田中氏によると、入札の際は導入後のサポート体制や内容が評価されているそうだ。
「魔法のプロジェクト」「Pepper」を持つソフトバンクだからできること
GIGAスクール構想は、「誰一人取り残すことのない、個別最適化された学びの実現」をうたっているが、これまでのさまざまな取り組みで培ったノウハウが生きているという。
まず、ソフトバンクは東京大学 先端科学技術研究センターと共同で、「魔法のプロジェクト」に取り組んでいる。このプロジェクトは、携帯情報端末を特別支援教育の現場で活用してもらって有効性を検証し、その活用事例を公開することで、学ぶ上での困りを持つ子どもの学習や社会参加の機会を増やすことを目指している。
活用事例の成果は公式サイトで公開されているが、同プロジェクトの実証で利用されたアプリは、電子メールやブラウザ、コミュニケーション・エイド、音声認識、アクセシビリティ機能など、多岐にわたる。「魔法のプロジェクト」では、学ぶ上での困りを持つ子どもたちがこうしたさまざまなアプリを利用する上でのノウハウが蓄積されているのだ。
例えば、iPadの拡大画面機能や音声読み上げ機能は、障がいを持っている子供たちの学習に役立つそうだ。
また、グループ子会社に、不登校児童向けの社会貢献プログラムを提供しているSBプレイヤーズも含まれている。何らかの事情により、学校に登校することができない子どももオンライン授業によって、学ぶ機会を得ることができる可能性がある。
こうしたグループ会社全体で蓄積してきたノウハウは、GIGAスクール構想の提案に生かされているそうだ。
iPad、Windows、Chromebookの長所と短所に注目
GIGAスクール構想で児童や生徒に配布される1人1台端末はiPad、Windows、Chromebookの3種類となっている。澤田氏は「どれもよさがあります」と語る。ただし、自治体に提案に行く際、3つすべての提案書を持っていくことはないそうだ。
iPadはご存じのとおり、操作性に優れていることから、小学校の低学年用として人気があるという。街中でも幼児がスイスイとiPadの画面をスワイプしている姿を見かけるが、人に習わなくても自然と操作できてしまうのがiPadの強みだ。
Windows、Microsoft Officeは先生方が使い慣れていることから、支持を得ているそうだ。先生方は数十人の生徒を相手に、端末を使って授業を進めていかなければならない。そうなると、少しでも自分が使い慣れたソフトを活用したいところだ。
Chromebookは他の2モデルに比べて、コストが安いところが長所の1つだ。加えて、教育現場では、Googleの教育プラットフォーム「G Suite for Education」 が 1つのアカウントでiOSとWindowsにも対応している点や、Chromebookとも親和性が高いというメリットがあるそうだ。
ITはベンダーに任せ、先生方は教育に専念して
GIGAスクール構想に取り組むにあたってのアドバイスを訪ねてみたところ、澤田氏は「構内のネットワークにおいて、Wi-FiとLTEの両方が使える環境を構築しておくと、便利だと思います。これからはクラウドサービスの利用が増えていくことが予想されます。LTEがあれば、直接インターネットに接続することができます」と話す。
一方、田中氏は「GIGAスクール構想は、端末を買うことが目的ではありません。先生の仕事をどう改革するか、生徒にどうやって良質な授業を届けるかが、重要です。国はこうしたことを実現するためのきっかけとして、GIGAスクール構想を実施しているのです」と語る。
GIGAスクール構想に限ったことではないが、IT関連のプロジェクトでは、機器やソフトウェアの選定にばかり注目が集まり、それらを使ってなにをするのかが置き去りになっているケースも少なくない。
また、田中氏は「GIGAスクール構想によって導入した端末やソリューション、ネットワークを使い続けていくには、来年度もコストがかかることを忘れてはいけません」と話す。運用を始めてみないとわからないこともあるので、現時点では、どれだけのコストがかかるかを見積もるのは手探りで行わざるを得ない。とはいえ、運用コストがかかることを認識していなかったら、想定外のコストが発生したということで、現場は大変なことになるだろう。
さらに、田中氏は「ITの運用はわれわれのようなベンダーにお任せいただいて、先生方には先生方しかできないことに集中していただきたいと思います。GIGAスクール構想が、その自治体の子どもたちへの授業改革・教育改革、また先生方の働き方改革の実現にも貢献することを期待しています」と語る。
今回、お2人の話を伺って最も印象に残っているのは、「魔法のプロジェクト」などの活動で培ったノウハウを活用することで、すべての子どもをカバーするための提案を行っているということだ。困りごとを抱えている子どもたちこそ、GIGAスクール構想によってこれまで以上に充実した教育を受けることが可能になるかもしれない。誰一人取り残すことのないGIGAスクール構想のプロジェクトが全国で実現することを期待したい。