この記事を執筆している現在、新型コロナウィルス感染症の患者数増加が全世界的にとどまることを知らず、さらなる拡散を防ぐために、企業や個人の移動を制限する取り組みが加速しています。これらの制限は、そのまま経済活動にも波及しており、企業における事業活動の停滞、計画の遅延など、さまざまな問題を引き起こしています。

このような状況下でBCP(事業継続計画)対策として、これまで以上に注目を集めているのがテレワークです。改めてテレワークとは、下図のICTツール(一般財団法人 日本テレワーク協会発刊 のテレワーク関連ツール一覧から抜粋)を活用して、従業員が時間や場所にとらわれず、柔軟に働くことを指します。

  • テレワーク関連ツールの一覧

    テレワーク関連ツールの一覧

これらICTツールのほとんどは、社内・外とのコミュニケーションやコラボレーション、社外ネットワークからの社内ツールへのアクセスを対象としており、主にフロントオフィス業務従事者に焦点が当たっています。

では、これらの主要ICTツールを利用して、バックオフィス業務のテレワークを実現できるかと言いますと、答えは“No”となります。なぜならば、日本のビジネスでは、紙ベースの契約書や判子の捺印リレーといったアナログかつマニュアルな業務プロセスがいまだ多く残っているからです。

本稿では前編・後編と2回にわたり、電子契約・署名について解説します。

バックオフィス業務に紙と判子文化がもたらす問題

では、具体的にどのような業務プロセスで問題が発生しているのか、筆者の所属するドキュサインへの問合せが多いユースケースを例にいくつか紹介していきます。

社外との契約締結

下記のような社外との契約におけるプロセスのうち1~3の契約書の作成、契約内容交渉、契約書の社内審査・承認処理の一部は、すでに電子化していますが、4以降の契約締結のプロセスは紙の契約書と判子を使用しているケースが数多く見受けられます。

  1. 契約書ドラフトの作成

  2. 社外との契約内容交渉

  3. 交渉済最終契約書ドラフトの社内審査・承認処理

  4. 審査・承認済み契約書への責任者印の押印依頼並びに印紙購入承認処理

  5. 印紙貼付・押印済み契約書を社外へ郵送

  6. 社外責任者印の押印と返送

  7. 契約書の最終確認

  8. 契約後の処理(発注書発行、請求書発行、営業レコード更新等々)実行

  9. 契約書にインデックスを付与し保管

人事総務関係の書類処理

新規社員の雇用:新卒、中途問わず新規社員の雇用時には、入社前後に多くの書類が“印刷 + 記名・捺印”で処理され、各部門は原本書類の回付またはスキャン・コピーによる複製を元に、人手で登録処理などを実施しています。

  1. 入社前 - 労働条件記載 雇用契約書、身元保証書、機密事項守秘契約書(NDA)、就業規則の同意

  2. 入社後 - 従業員調書、通勤費申請書、給与振込先届出書

社内の各種申請:下記のような会社保有資産(スマートフォン、PCなど)の借入や福利厚生関係の申請などについても、入力フォームの印刷から記入、従業員による捺印といった処理が一般化されています。

  1. 固定資産・備品借用書

  2. 研修受講申請書

  3. 育児休業申請書

  4. 補助金申請書

  5. 住宅手当申請書

支払い処理

支払い部内承認については電子化されていますが、部門を跨いだ場合には電子化されておらず、印刷物による回付となるケースがあります。以下は、2と3が印刷物による回付で、4が回付内容を確認した上での人手による作業を伴うケースです。

  1. 物品購入後の請求書に関わる各部門での承認処理

  2. 承認処理が完了した請求書を支払い依頼伝票と共にファイナンス部門へ展開

  3. ファイナンス部門内での承認処理

  4. 請求書に基づく支払いをシステムへ入力

バックオフィス業務の多くは、いまだ“紙と判子”が必須な処理が中心で、業務従事者と処理依頼者はオフィスなど場所の制約を受けることになります。

オフィスでしかできない業務プロセスが存在する限り、オフィスに行くことが困難であったり、オフィスをクローズする必要性に迫られるケースでも、業務に関わる社員はビジネスを継続するために出社しているのが実状です。

導入が進む電子契約・署名ソリューション

では、いまだ“紙書類と判子”が中心の契約、同意、承認の業務プロセスを電子化する方法はないのでしょうか。日本ではまだ普及率は高くないですが、海外では解決するための電子契約や電子署名がすでに一般的に普及しています。

なぜ、日本では“紙と判子”中心の業務プロセスから脱却できていないのでしょうか。民事訴訟法では、本人又は代理人の署名又は押印があれば、私文書(契約書など)が真正に成立したものと推定するとの記載があり、過去の判例においても推定効が利用されていることが、脱却できていない理由の1つとして推察されます。

一方で、契約は口頭であっても当事者間で意思が合致している場合には成立しますが、それを覆すためには意思の合致があったのか、なかったのかを証明する必要があります。つまり、証拠能力が高い根拠を示すことができれば、契約時に意思の合致があったかどうかを、第三者(裁判官など)が適正に判断することができます。

電子契約や電子署名では、電子的な契約書に署名者本人の意思で合意したことを記録でき、その記録が以降改ざんされていないことを技術的に証明することができます。

つまり、高度な証拠能力を備えているので、私文書の合意(契約書など)に活用することが可能なのです。ただし、各ソリューションの証拠能力にはレベル差が存在することがありますので、ソリューション選定の際に留意する必要があります。

近年、電子契約、電子署名の安全性に対する理解が深まってきたこともあり、日本市場でも企業による電子契約、電子署名ソリューションの採用が始まっています。後編では、数多く存在する電子契約、電子署名ソリューションが、テレワークにどのようなメリットをもたらすかについて説明します。

【著者紹介】
ドキュサイン・ジャパン ソリューション・エンジニアリング・ディレクター 佐野龍也
米国に本社を持つドキュサインは、合意・契約の準備から署名捺印、実行、管理までの一連のフローを自動化する製品群「DocuSign Agreement Cloud」を提供しています。同製品群の電子署名ソリューション「DocuSign eSignature」は世界で56万社以上が導入(無料版除く)し、数億人が署名する世界で一番利用されている電子署名です。