米Zuoraは、先日、新しいプラットフォームである「Zuora Central Platform」を発表したが、その狙いや、市場拡大に向けた施策を米Zuora CEOのTien Tzuo(ティエン・ツォ)氏に聞いた。

御社は2007年に創業しましたが、その際、こだわった点は何でしょうか?

Tien Tzuo氏:セールスフォース時代のサブスクリプションモデルのナレッジを活かしたシステムを作ろうと思っていました。たとえば課金、資金の収集、決済、売上の認識機能を組み込むことにしました。なぜなら、サブスクリプションモデルを実施する企業にとって、これらの機能が絶対に必要になることがわかっていたからです。

  • 米Zuora CEOのTien Tzuo(ティエン・ツォ)氏

昨年出版したTien Tzuo氏執筆の書籍「サブスクリプション――『顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』(ダイヤモンド社)

サブスクリプションモデルを実施する企業は、成功のためのビジネスモデルやテクニックはどういうものなのかという点にも興味を持っており、そのために「Subscribed」というイベントを開催してきました。このイベントでは、われわれがセールスフォース時代に得たナレッジをコミュニティに還元することを目的にしています。また、昨年日本でも「サブスクリプション」という本を出版しましたが、ベストセラーになりました。この点からも、日本の顧客がいかにサブスクリプションに関するナレッジを蓄えたいかということがわかると思います。

※Tien Tzuo(ティエン・ツォ)氏は、Zuoraを立ち上げる前はセールスフォースに在籍しており、CMOも務めていた。

創業当時と現在における変化で何か感じる点はありますか?

Tien Tzuo氏:われわれは、すべての企業がサブスクリプションモデルに移行するだろうと思っていましたが、それが現実になりつつあります。また、この4年ほどは、(サービスやソフトウェアだけなく)物理的なモノについてもサブスクリプションエコノミーに移行しています。つまり、モノをつくる際にもセンサーが組み込まれ、ネットにつながるということが起きています。モノを作る世界でも、ネットにつながることで、サービスとの連携ができるようになってきており、製造業もサブスクリプションエコノミーに移行するようになってきています。

日本がサブスクリプションモデルへの移行に熱心な理由は何でしょうか?

Tien Tzuo氏:これは世界的に見られる傾向で、オーナーシップの終焉ということです。調査結果を見ると、どの国の消費者もモノを買わなくなってきてます。だた、モノを買わなくても使いたくないというわけではありません。そのため、各企業も利用ベースに変えていけば、ビジネスを成長させることができると気づき始めています。

freeeなどのサブスクリプションモデルを採用するスタートアップが急成長しており、大手企業ではリコーが良い例で、プリンタやコピー機が売れなくなるかもしれないが、顧客のところに置かれているハードウェアを活かして、サブスクリプションモデルのビジネスやサービスを売っていくことができると気づいています。アップルもそうで、端末を売ることに注力しているわけではなく、アプリなどエコシステムを充実させることによる収益アップを図っています。

ソフトウェアやコンテンツビジネスにおいては、改善を加えながらビジネスを成長させることが可能ですが、製造業にとっては、単なる分割払いになる可能性があります。製造業がサブスクリプションモデルで成功するためのポイントは何でしょうか?

Tien Tzuo氏:そのために本を書きました。本の中ではトヨタの柔軟性に富んだサービスを用意している例を紹介しています。また、ギターのFENDERでは、Fender Playというアプリを用意して、ギターレッスンの仕組みを提供しています。キャタピラーも同様で、トラクターがインターネットにつながっているので、安全性の担保や予兆保全ができるシステムが組み込まれています。

企業がこれまでどおり同じ商品を売り、サブスクリプションモデルといいながら、単なる分割払いしか提供していないとなれば、サブスクリプションモデルの良さを活かしていないことになります。やるべきことは、顧客が自分の製品をちゃんと使っているのか、自動車であれば走行距離、キャタピラーであればどれだけの土砂を運んでいるのか、ギターであれば、どれくらいの頻度でプレイしているかということがナレッジになります。このナレッジをサービスに活かしていくことが重要です。顧客が商品を買ってくれることではなく、その商品によって何をしようとしているのかという目的を突き止めることが重要になります。

日本カーシェアにおいては、走ることなく、昼寝をしたり、充電したり、映画を観たりしている例が報告されています。想定していた用途と違う使い方をしているのです。うまくいっている企業は、デジタル技術を使いながら、顧客がどういう使い方をしているのかを理解して、サービスにつなげています。

今後、市場拡大に向けて強化していくポイントは何でしょうか?

Tien Tzuo氏:顧客のニーズはそれぞれユニークなもので、顧客ごとにやりたいことは異なっています。そこで今回、新しいプラットフォームを用意して、ニーズに合わせて拡張できるようにしました。これによって、カスタマイズも行えるようになります。

先日の発表会で、パーソナライズが重要といっていましたが、今後、DMPのようなマーケティング領域に進出する予定はあるのでしょうか?

Tien Tzuo氏:われわれは、ビジネスモデルのイネーブルに注目しているので、マーケティングよりもファイナンス側に注力しています。その視点でのパーソナライズとは、顧客に応じた価格モデルを設定できるようにすることです。また、ユーザーエクスペリエンスを充実できるようにすることに着目しています。たとえば、サービスを立ち上げる際の立ち上げ方や負荷、サービス変更のしやすさをユーザーエクスペリエンスと呼んでいます。また、サービスを利用してもらう際に、それが請求可能かどうかも見ています。ドコモは、基地局の利用料とかネットワーク代などを個別に請求しているのではなく、サービスを利用した場合の利用時間や容量で課金しています。自動車会社も、走行距離や時間に応じて料金が払えるようにする、これがユーザーが求めるサービスとなります。

日本市場の拡大の施策は、パートナーの強化ということでしょうか?

Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏

Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏:従来のパートナーには、リセラーとしての販売をお願いしてきましたが、今後は、上流からビジネスモデルを変えてもらえるパートナーを強化していきます。

Tien Tzuo氏:日本ビジネスは堅調に推移しており、パートナーがより重要になっています。これは、グローバルでも共通です。グローバルのパートナーでは、アクセンチュア、デロイト、PwCなどがいます。パートナーには、リセラーではなく、エクスペリエンス強化を手伝ってほしいと思っています。

  • 左が従来のビジネスモデル、右がサブスクリプションのビジネスモデル

日本のユーザーにメッセージはありますか?

Tien Tzuo氏:オーナーシップは終焉し、どんどんものを買わなくなっています。モノ売りモデルの企業は、今後、どんどん小さくなっていくと思います。変革できなければ、5-10年で顧客との関係性がなくなってしまうでしょう。われわれが、変革のお手伝いをできればと思っています。