富士通は6月11日、音を振動と光に変換し、特徴をユーザに伝える新しいデバイス「Ontenna(オンテナ)」を、7月1日からイベント用のサービスとして提供すると発表した。

デバイスには、Ontenna本体、複数のOntennaを制御できるコントローラー、それぞれのデバイスに付属する充電スタンドがある。

  • 左からOntenna本体、コントローラー、充電スタンド

Ontennaは、富士通 スポーツ・文化イベントビジネス推進本部 企画統括部 Ontennaプロジェクトリーダー 本多達也氏が、公立はこだて未来大学に在学中に聴覚に障がいを持つろう者のために開発したもの。

  • 富士通 スポーツ・文化イベントビジネス推進本部 企画統括部 Ontennaプロジェクトリーダー 本多達也氏

マイク、振動モーター、LEDを内蔵し、約60~90dBの音を256段階の振動と光の強さに変換して伝達する。試作時は光だけだったが、ろう者の意見を聞き、振動を追加した。約60~90dBに絞ったのは、あらゆる音を拾ってしまうと、振動し続けることになるため、利用範囲を狭めたという。

  • Ontennaの利用イメージ

ろう学校の生徒は、耳が聞こえないために音の特徴を知覚することや、自身でリズムを感じることが困難な場面が数多くあり、発話練習の際、自身の声の大きさが分からないために声の強弱を練習することが難しく、また、音楽の授業で太鼓を叩く際、音を感じることができないため本来のリズム通りに叩くことができないという課題があるという。

これに対し、「Ontenna」を利用することで、生徒が音のリズムや強弱といった、音に対する興味の幅を広げることが期待できるとともに、先生の授業の負担を減らすことができるという。

富士通では、ろう者に音を届けることを目的に2015年度より「Ontenna」の研究を開始し、ろう学校の教育現場をはじめ、スポーツ観戦やコンサート、タップダンス鑑賞など様々な環境で「Ontenna」を活用した実証を重ね、研究開発に取り組んできたという。

7月から提供するイベント用サービスでは、「Ontenna」本体のレンタル、システム環境構築、イベントでの運用サービスが提供され、「Ontenna」30台で日額20万円(税別)から提供される。

  • Ontenna提供スキーム

富士通では、ろう者・シニア向けエンターテインメント分野のほか、eスポーツなど、健常者向け市場もターゲットにしている。

本多氏は、「通信機能を搭載することで、同時に複数のOntennaを制御でき、エンターテインメントで活用できる可能性が広がった。これまではろう学校の子供たちに届けたいという思いだけでやってきたが、どうやってビジネスとしてやっていくのかについて悩んでいた。通信機能によって、音が聞こえない人と聞こえる人が一緒に楽しめるようになった」と語り、通信機能が商用化のポイントだったという認識を示した。

また、今後はAI機能を組み込む予定で、そうなった場合、自分の子供の声だけに反応したり、インターホンの音だけに反応するようにでき、ろう者が訪問者や自分の子供が泣いていることに気づけないという課題を解決できるという。

富士通 執行役員常務 阪井洋之氏は「社員からいろいろなアイデアが出ているが、われわれも今後、いろいろな発見をしていきたい」と述べ、利用用途が広いことをうかがわせた。

  • 富士通 執行役員常務 阪井洋之氏

富士通では、2021年までに1000のイベントへのサービス提供を目指している。

また、デバイス自体も富士通エレクトロニクスが7月からECサイトで販売する。価格はオープンだが、予想市場価格は本体が25000円前後、コントローラーが30000円前後となっている。

全国ろう学校へ「Ontenna」体験版の無償提供

富士通は同日、ろう学校の教育現場における課題解決や有効性の検証のため、6月11日より一部のろう学校から「Ontenna」の体験版を無償で提供することもあわせて発表した。

提供するのは、「Ontenna」10台 + コントローラー1台 + 充電スタンド11台で、「Ontenna」活用プログラムへの協力が条件となる。先行して30校に配布し、順次拡大するという。