2月28日までスペイン・バルセロナで開催された携帯通信関連のイベント「Mobile World Congress 2019」、2018年秋に米国で5Gの商用サービスがスタートしたこともあり、話題は5G一色となった。加えて、通信インフラベンダー側では米中の貿易戦争で矢面に立たされているHuaweiの話題も出ていた。
この分野を牽引してきたEricssonのネットワーク戦略担当トップのPreeti Nagarajan氏に、5Gの動向、仮想化などのインフラ側の新技術、そして競合について聞いた。
--Ericssonは5Gについてどのような戦略をとっているのか?--
Nagarajan氏: 5Gはわれわれの戦略において重要であり、4つのユースケースがあると考えている。FWA(固定無線アクセス)、クリティカルIoT、マッシブIoT、モバイルブロードバンドの強化だ。
5Gでは、28GHzなど新しい周波数帯も入ってくる。5Gが最初にスタートした米国における最初の実装は28GHzと39GHであり、ここではFWAが適したユースケースとなる。もちろん、Ericssonの技術が使われている。
アジアはミッドバンドと言われる2.6GHz帯、3.5GHz帯が多く、ここではモバイルブロードバンドの強化が重要なユースケースになる。日本では28GHzに加えて、3.5GHz帯、4.5GHz帯を使うことになっており、今年に通信事業者が決定すると予想している。
--日本における5Gの活用について、2020年に期待できることは何か?--
Nagarajan氏: ネットワーク側では周波数帯のオークションが2019年に終わり、2020年に初のミッドバンドでMassive MIMO(複数のアンテナを用いてデータの送受信を行う無線通信技術であるMIMOを発展させた技術のことで、Massiveは大規模を意味する)の5Gシステムが実装されると期待している。5Gのスマートフォンも登場する。日本は技術の受け入れが早い国で、これが実現すると多くの消費者や企業がネットワークを活用してくれるだろう。
その後は、低遅延や高い周波数帯でのFWAソリューションにより、ケーブルの敷設が難しいところでも家庭に高速ネットワークを提供できるようになるだろう。過疎地だけではなく、都市の過密しているところでも使えるようになると考えている。
--産業界における5Gの活用をどう見ているか?--
Nagarajan氏: 日本では工場の自動化などにおいて5Gが使われることを期待したい。ここでは、自前でネットワークを構築するプライベートLTEを活用するケースが出てくるだろう。プライベートLTEを使えば、5Gを待つことなくスマート工場を展開できる。システム側では準備ができている。
**--日本では今年、楽天が通信事業者として新規参入する。楽天は仮想化を利用し、これまでとは異なるアーキテクチャを構築していることをアピールしている。Ericssonは仮想化に関して、どのような取り組みを進めているのか?
Nagarajan氏: 仮想化に限らず、われわれは常に新しいアーキテクチャや技術を研究している。
仮想化と一口に言ってもさまざまだ。われわれは仮想化されたネットワークの実装において、どの程度のトラフィックが仮想化されるかを見ている。関心が異なる顧客にどのようにして新たなアーキテクチャを提供するかを考えながら、仮想化の開発を進めている。
MWCが開催される前に、Ericssonは上位レイヤのVirtual RANに関して、5G NRソフトウェアの仮想化を発表した。これは多数のユーザー向けのデータトラフィック管理が実現するもので、さまざまな5Gハードウェアに実装できる。
--O-RAN Allianceに参加したが、その目的は何か?--
Nagarajan氏: Ericssonは常にオープン性を重視しており、これまでOpenStack、ONAP、Linuxなどのプロジェクトに貢献してきた。業界の機運があり、スケールを得られるところがあれば取り組むというのがEricssonの姿勢だ。O-RANは利益があると考えた――これが参加した理由だ。
O-RANには8つの作業グループがあり、各作業グループが1つのネットワークインタフェースに取り組む。Ericssonは2つの作業グループに参加している。
1つは、RAN(ラジオ・アクセス・ネットワーク)の間の相互運用で、AIを利用したネットワークオーケストレーションとオートメーションにフォーカスする。
2つ目は3GPPが定義する上位レイヤの機能にフォーカスしたRAN機能間の相互運用性を目指し、マルチベンダーのプロファイルを提供する。複数のベンダーが同じネットワークにつながるためのオーケストレーションとなる。
--ITは仮想化によりシステムのアーキテクチャが変わり、企業の勢力図も変わった。ネットワークでも同じことが起こるとしたら、Ericssonはどうやってリードを維持するのか?--
Nagarajan氏: ネットワークはリアルタイムのパフォーマンスがますます大切になってくる。周波数帯の使用効率と性能を最大化するには、アプリケーション固有のソフトウェアとハードウェアを利用する価値がある。仮想化はコモディティハードウェア、ソフトウェアに接続されるが、周波数帯の使用効率と性能を得るには、それでは不十分だ。
無線の性能はデータセンターの性能とは異なる。周波数の効率を得るには、特別な組み合わせが必要と考えている。
競合も変わるだろう。すでに米国などではベンチャー企業が誕生しており、今後も増えるだろう。これは健全なことで、Ericssonがさらに改善できるチャンスだ。
Ericssonは創業150年近くの歴史を持ち、顧客と信頼関係を築いている。無線分野で性能の高いネットワーク構築の知識がある。競合があればお互いが学び、競争して改善するので、競合は良いことだ。この業界特有のこととして、競合しつつも標準化では共同で取り組んでいる。われわれは業界全体でグローバルの標準を作っている。
--Huaweiが大きな話題となっているが、どう見ているか?--
Nagarajan氏: EricssonのCEOは会期中、「顧客が不確実性への懸念を抱えている」とコメントしている。Ericssonは5Gを実現する機器を用意しており、すでに12社と商用サービスで契約している。
10数年前まで、この分野には20社近くのベンダーがいたが、現在3、4社に絞られた。プレイヤーが少なくなり、競争が激化している。Huaweiだけでなく、Ericsson、Nokiaなどもこれまで以上に注目されている。