日本IBMはこのほど、都内で「IBM Cloud & AI Conference」を開催した。本稿では、米IBM General Manager, IBM Cloud Platformのファイアス・シャプルワラ氏の講演の模様をお伝えする。

同社は、2018年に日本市場おいてクラウドとAIに対し大きな投資を行った。まず、関東近郊3カ所に新たなデータセンター(DC)を整備したほか、関西にもDCの設置を決定している。また、これまでWatsonのインスタンスを利用する際は米国のDCにコールしなければならなかったが、国内のDCにおいて13個のWatson APIの利用が可能になるなど、攻勢を強めている。

このような状況を踏まえ、シャプルワラ氏は企業のクラウド化について次のように説明する。

「企業システムのうち20%はクラウド化されているが、80%は依然としてオンプレミス上に存在し、移行が難しいワークロードだ。ユーザーは常にプライベートクラウド、パブリッククラウド、デディケイテッドクラウド、SaaSなど、5~6つのクラウドを検討しており、それぞれのユーザーがユニークな要求仕様を持つていることに加え、どのように適切な技術を集めつつ、クラウド化の道のりをたどるのか、ということを考えている。これは、大半のユーザーが直面する課題だ」(シャプルワラ氏)

  • 米IBM IBM Cloud Platform General Managerのファイアス・シャプルワラ氏

    米IBM IBM Cloud Platform General Managerのファイアス・シャプルワラ氏

同社では、このような課題に対しオープンかつセキュリティ性を確保した「IBM Cloud」を提供している。同社において、クラウドの概念はハイブリッドであり、オンプレミス、デディケイテッド、マルチクラウドなど複数のクラウドを利用する顧客を支援している。

同氏は、単にオープンだけではなく、オープンアーキテクチャとオープンソースも含まれ、レッドハットの買収で、同社の試みがさらに大きなものになることに加え、セキュリティはマネジメントにおいて重要であり、クラウドプラットフォームを通して、すべてを可能にしたいと考えているという。

そして、シャプルワラ氏は「重要なことは、われわれがワンクラウドアーキテクチャを構築している点だ。網羅的なスタックであり、インフラ、プライベート、パブリック、デディケイテッド、開発サービスを搭載し、Kubernetes、開発言語、DBがあり、アプリケーションからビジネスの価値を生み出せる。カスタマーサービスや医療、金融であろうと簡単にインサイト引き出せるようにしている」と説く。

続いて、同社のハイブリッド&マルチクラウド戦略について説明した。同氏は複数のクラウドを利用するユーザーはオンプレミスをクラウドにつなげ、ワークロードの管理が必要になる。例えば、アプリケーションに近い場所でクラウドを展開しつつ、それ以外も簡単に運用するマルチクラウド戦略を立ち上げており、シームレスにハイブリッド/マルチクラウド両方をサポートすることに重きを置いている。

  • ハイブリッド環境のための選択肢を豊富に持つ

    ハイブリッド環境のための選択肢を豊富に持つ

今後もハイブリッド環境は継続していくため、ワークロードをモダナイズしたい場合は段階的に行い、各スタックの作り込みにより異なるが、「IBM Cloud Private」を立ち上げ、まずは既存のオンプレミスにあるアプリケーションのモダナイズを支援する。同社のクラウドのポートフォリオは充実しており、コンテナ、ランタイムのサービスなどを、IBM Cloud Privateで利用できるという。

コンテナ、セキュリティ、コンプライアンスなどの要件に対し、まずはオンプレミスでモダナイズし、クラウドにつなげる。このようにオンプレミスからクラウドへの移行をシームレスに行い、ベアメタルやOpenStackなどで運用されているものを含めて対応する。

シャプルワラ氏は「オンプレミスのポートフォリオはクラウドのポートフォリオと異なるが、オンプレミスからクラウドへの接続性は担保するため、ハイブリッドな環境でシームレスな運用を可能としており、われわれが強く差別化として強調したい点だ」と、説明した。

これは、ほかのクラウドプロバイダーは重要視していないが、同社では大規模エンタープライズの顧客ニーズをベースにポートフォリオを構築しているからだという。

クラウド化に際し、顧客はセキュリティの要件や複雑なシステム、多くのレガシーなワークロードなどが存在するため、どこから手をつければいいのか判断がつかない場合があるが、同社ではクラウド化へのロードマップとして「クラウドネイティブ」「モダナイゼーション」「クラウド移行」の3方向からの支援を可能としている。

  • クラウド化へのロードマップの概要

    クラウド化へのロードマップの概要

クラウドネイティブに関しては、オープンアーキテクチャに注力しており、オープンスタンダード、オープンソースも活用する。KubernetesやCloud Foundry、OpenShiftなどオープンソースのサービスを提供している。

モダナイゼーションについては、オンプレミスでIBM Cloud Privateを使い、アプリケーションをコンテナ化し、クラウドに移行することでモダナイズを図るという。

クラウド移行では、オンプレミスで稼働しているSAPやVMwareなどのワークロードをLift & Shiftし、クラウドに移行する。コンテナ化した上でワークロードをクラウドに移行し、VMwareを利用しているのであればオンプレミスと同じVMware環境をクラウドで構築可能な「VMware Hybrid Cloud Extention(HCX) on IBM Cloud」を用い、SAPであれば「SAP on IBM Cloud」により移行を容易にしている。

最後にシャプルワラ氏は、レッドハットの買収に関して「われわれはオープンソースを重要視しており、レッドハットが最善の企業だ。多様なスタックで構築されたアプリケーションのクラウド展開を支援できる。800万人のオープンソースの開発者を抱え、LinuxやOpenShiftなど豊かなオープンソーステクノロジーに加え、クラウド開発ツールをはじめとしたエコシステムを有し、われわれが組み合わさることで、これまで以上にマルチクラウド/ハイブリッドクラウドに対して多くの選択肢を顧客に提供できる」と、胸を張っていた。