日本オラクルは11月14日、都内でERPクラウドの最新動向に関するメディア向けの説明会を開いた。

アプリケーションにAI/機械学習のテクノロジー

説明会では、10月22日~25日に米サンフランシスコにおいて開催された「Oracle Open World (OOW) 2018」で米Oracle Executive Vice PresidentのSteve Miranda氏が発表した、ERP(Enterprise Resources Planning)/EPM(nterprise Project Management)、SCM(Supply Chain Management)、CX(Customers Experience)、HCM(Human Capital Management)をはじめとした、オラクルのクラウドアプリケーション戦略の詳細が語られた。

冒頭、日本オラクル 常務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 ERP/EPM クラウド事業本部長の桐生卓氏は「OOWでのアプリケーションに関するメッセージはわかりやすく、業務アプリケーションにAI/機械学習のテクノロジーが組み込まれた」と述べた。

  • 日本オラクル 常務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 ERP/EPM クラウド事業本部長の桐生卓氏

    日本オラクル 常務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 ERP/EPM クラウド事業本部長の桐生卓氏

昨今では、多様なテクノロジーがビジネスに変化をもたらし、新製品やサービスがリリースされることで、新たなビジネスモデルが出現し、サービスがコモディティ化され、また新しいサービスが生まれる、という流れとなっている。企業としては、これらのサイクルを素早く回すために、クラウドの活用が進んでいる。このような状況に対し、桐生氏は次のように指摘する。

「これまでのオンプレミス型パッケージの場合、製品のリリースサイクルは通常1年に1度、アップグレードが提供されていたが、顧客側ではアップグレードされたものを適用することにハードウェアの償却のタイミングなどもあり、5年に1度となっている。しかし、5年に1度のアップグレードでは新しいイノベーションやテクノロジーを容易に取り込むことができない。新しいイノベーションやテクノロジーを簡単に取り込むためにはクラウドによる提供形態が望ましく、現在の競争環境においてはSaaS型でなければ企業経営はままならない」(桐生氏)

  • 企業ではSaaS型アプリケーションを活用することが望ましいという

    企業ではSaaS型アプリケーションを活用することが望ましいという

同社では、これまでERP/EPMだけでなく、SCM、CX、HCMの各アプリケーションをシームレスにつなげ、活用できる取り組みを進めており、その未来図として、現在ではAIや機械学習、ブロックチェーン、IoTなどのテクノロジーを組み込んでいる。同氏は「新しいテクノロジーを組み込むことで、業務アプリケーションの姿が大きく変化していく」との認識を示した。

  • オラクルの次世代アプリケーション

    オラクルの次世代アプリケーション

これらを実現していくために、さまざまなAIを組み込んだ分析ツールをアプリケーションに搭載した「Adaptive Intelligent Apps」、ボット技術を用いた音声認識により、解決策を予測し業務を効率化するインタフェース「Conversational Agent」、Adaptive Intelligent AppsとConversational Agentを組み合わせてユーザーの利便性を高める「Intelligent UX」の3つのテクノロジーを活用する。

  • オラクルが提唱する3つのテクノロジー

    オラクルが提唱する3つのテクノロジー

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 ビジネス開発本部 SCM/ERP/EPM担当ディレクターの中島透氏は、これら3つのテクノロジーについて「何を調べようとしているのか対象者を特定し、知っておくべきことを動的に提示する。そして、次に起こりそうなことを予測・レコメンドし、取るべきアクションをナビゲートしていくことを網羅することが可能だ」と、説明した。

  • 日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 ビジネス開発本部 SCM/ERP/EPM担当ディレクターの中島透氏

    日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 ビジネス開発本部 SCM/ERP/EPM担当ディレクターの中島透氏

ERP/EPM Cloudの新機能

まずは、ERP/EPM Cloudの新機能として同氏は「Intelligent Payments(Dynamic Discounting)」「Supplier Recommendations」「Expenses Chatbot」「Account Reconciliation」「Adaptive Intelligent Planning」を紹介した。

Intelligent Paymentsは従来の標準的なディスカウントの場合、請求開始日から支払期日まで割引率が毎日減少していくため、AIを用いて段階的ディスカウントに基づく最適支払日を設定できる。企業としてはディスカウントによる支出の削減、サプライヤーはキャッシュフローの改善につながるという。

  • 「Intelligent Payments(Dynamic Discounting)」の概要
  • 「Intelligent Payments(Dynamic Discounting)」の概要
  • 「Intelligent Payments(Dynamic Discounting)」の概要

Supplier Recommendationsは、サプライヤーポートフォリオを最適化するため、AIでサプライヤーをランク付け/分類し、推奨する。これにより、サプライヤーとの交渉を改善するほか、サプライチェーンのリスクを特定し、最小限に抑えることを可能としている。

  • 「Supplier Recommendations」の概要

    「Supplier Recommendations」の概要

Expenses Chatbotは、スマートフォンのカメラで領収書を撮影すると、イメージ取り込み時にAIがサポートし、経費の費目を自動的に分類するほか、コンプライアンスに抵触するか否かを照合することができるという。

  • 「Expenses Chatbot」の概要

    「Expenses Chatbot」の概要

Account Reconciliationは、会計業務では他システムと連携する際に人手による伝票の照合処理に時間を要するが、AIの適用により自動化を可能としている。これにより、照合処理の70~90%をAIが担うため、複雑な照合処理に人手を割く必要がなく、処理効率の向上と処理時間の削減、ひいては決算処理の短縮が図れる。

  • 「Account Reconciliation」の概要

    「Account Reconciliation」の概要

Adaptive Intelligent Planningは、データに基づく計画や予測を実施。データ間に隠れた相関関係をAIで顕在化することで分析時間を最小化し、解決に向けたアクションにつなげることを可能としている。例えば、異常値の自動検出とアラート、原因分析、洞察による気付き、解決に向けたアクションを提示する。

  • 「Adaptive Intelligent Planning」の概要

    「Adaptive Intelligent Planning」の概要

SCM Cloudの新機能

続いて、SCM Cloudの新機能について説明した。IoT関連で「Asset Monitoring」「Production Monitoring」を、ブロックチェーン関連では近日中にリリース予定の「Intelligent Track and Trace」「Lot Lineage and Provenance」「Intelligent Cold Chain」「Warranty and Usage Tracking」を、それぞれ挙げていた。

Asset MonitoringはIoTがメンテナンスサービスと連動し、AI/機械学習エンジンが異常値の発見やインシデントの予測を行うことに加え、自動的にMaintenance Cloudにメンテナンス依頼オーダーを発行することで作業指示詳細がリアルタイムに参照できるという。

  • 「Asset Monitoring」の概要

    「Asset Monitoring」の概要

Production Monitoringは生産スケジュールをインテリジェントに評価し、機械学習を用いた異常値発見の予兆分析を行い、工場などが設定した当初計画に対する実績状況を評価することで望ましいスケジュールを提案することを可能としている。

  • 「Production Monitoring」の概要

    「Production Monitoring」の概要

また、ブロックチェーンを活用したIntelligent Track and Traceは拠点や部門間の取り引き、資産または商品の移動を監視する。Lot Lineage and Provenanceは階層的シリアル番号のライフサイクル管理、コンポーネントの払い出しや構成、品質検査結果を記録し、製品のすべての変換点を追跡することで、製品の系譜、シリアル、起源を参照できるという。

Intelligent Cold Chainは食品と医薬品に関する安全管理のための包括的なトレーサビリティを提供し、Warranty and Usage Trackingは高価値資産の状況を監視し、レンタル、保証、サービス、保険、製品の使用状況のトラッキングを行う。

  • ブロックチェーンを活用した各種新機能の概要

    ブロックチェーンを活用した各種新機能の概要

最後に中島氏は「ERP/EP、SCM、CX、HCMなどビジネスアプリケーションをつなげ、自動化することは確立した。今後はデータの活用をAIやIoT、ブロックチェーンを利用しつつ、それらに対して機械学習の技術を取り入れて解析することで、より高度かつ効率的なビジネスの成長に向けたアプリケーションを開発していく」と、意気込みを語っていた。