Dropbox Japanは8月30日、都内で自社システム「Magic Pocket」についてメディアブリーフィングを開催した。

現在、Dropboxは5億アカウント、180カ国以上で利用されており、5億アカウントのうち有料ユーザーが1100万人に達し、同社の推測では有料ユーザーの80%以上が業務で利用しているという。業種に偏りははなく、ユーザーは中小企業から大企業まで幅広く利用し、共同作業のプラットフォームとして活用されている。

Dropbox Japan ソリューション アーキテクトの保坂大輔氏は「多くのユーザーが使っているため、われわれとしてはインフラを整備しなければ期待に応えられない」と話す。

  • Dropbox Japan ソリューション アーキテクトの保坂大輔氏

    Dropbox Japan ソリューション アーキテクトの保坂大輔氏

同社が預かる顧客データは1EB(エクサバイト)以上、ファイル数は4000億以上にのぼり、今後は加速度的にデータが増加するほか、ネットワークトランザクションの拡大が見込まれている。

これまで同社のインフラストラクチャは、2011~2014年にAWSにファイルデータの本体を置き、Dropboxの処理やインタフェースの提供などは自社データセンター(DC)のサーバで運営するハイブリッドインフラストラクチャだった。

その後、2014~2015年にAWSから自社のサーバ群である「Magic Pocket」に全面移行し、2016年~2018年にはネットワークインフラの世界的な規模で拡張した。現在ではSMRを用いたDCの集約化を進めている。

同社のストレージインフラストラクチャにおける競争優位性はセキュリティ、パフォーマンス、アジリティの3つだという。

まずは、パフォーマンスとアジリティについて同氏は説明した。Magic Pocketは同社独自のEB規模のストレージシステムであり、現状では数EBのデータを預けることを可能とし、自社で設計・運用しており、AWS導入時と比較してパフォーマンス、信頼性ともに向上したという。自社専用にきめ細かくチューニングを施していることから、メリットを発揮している。

  • 「Magic Pocket」の概要

    「Magic Pocket」の概要

Magic Pocketを構築する際は十分な拡張性を担保することが可能なのか、ということを念頭に置いたという。そこで、ストレージで活用した技術がトラックを瓦のように重ねることでデータ密度を高めるSMR(Shingled Magnetic Recording:シングル磁気記録方式)だ。

保坂氏は「SMRは集約化できるが、書いたり、消したり、変更が多いものに関しては向かないということもある。われわれがSMRを選択した背景としては、ファイルを変更する時間帯が限られており、新規ファイルをDropbox上にアップロードした直後が一番多くの変更があり、時間の経過とともに変更されなくなる。そのため、最初の段階をケアすれば、それ以降は変更されることは少ないことからSMRを採用した」と、説く。

  • SMRの概要

    SMRの概要

これにより、データが集約化されるため、記憶装置に余裕を持たせることを可能としており、従来比で2分1の削減につながったという。そして、保坂氏はAWSから自社保有した点について「パフォーマンスとコストの観点から移行した」と述べた。

セキュリティに関しては、多要素認証やソルト(パスワードのハッシュ値の計算時にパスワードの前後に付加する文字列)付きハッシュを実装したパスワード、侵入検知、フォレンジックロギング検知、侵入テスト、バグ発見の奨励金、本番ネットワークと業務ネットワークの分離をベストプラクティスとして取り入れている。

また、ユーザーがアップロードしたファイルを4MBのブロックに分散・圧縮し、並列にMagic Pocketに転送する際に暗号化しているほか、認証はSOC 2/SOC 3、ISO 27001/27017/27018/22301、HIPPA/HITECHに対応している。

無償のオープンピアリング

続いてネットワークインフラストラクチャについて保坂氏は説明し、同社のネットワークの競争優位性はパフォーマンスとフレキシビリティだという。

同氏は「ネットワークも自社保有し、北米と欧州、アジアに展開しており、各ネットワーク間は4本の物理ケーブルでつないでいる。また、物理ケーブルは複数の会社と契約しているため、どこかのケーブルが切れたとしても残されたケーブルでつなげることが可能だ」と胸を張る。

  • Dropboxのグローバルにおけるネットワーク。紫が既設、茶色が新設

    Dropboxのグローバルにおけるネットワーク。紫が既設、茶色が新設

同社では、ネットワークのコネクションポイントをグローバルで展開しており、東京は大手町に位置するエクイニクスのデータセンターにある。現在でも米国、ヨーロッパにコネクションポイントを設置しており、2018年度末までに12カ国29施設への展開が完了するという。

これにより、ある地点でデータを送受信したい場合、従来であればISP(Internet Service Provider)のピアリングが必要だったが、同社では無償でオープンピアリングを受け付けることを可能としている。

  • オープンピアリングの概要

    オープンピアリングの概要

保坂氏は「各社がスループットの高速化を求めてネットワークに投資し、つなぐことが当たり前になると、今後はオープンピアリングの世界が実現していくのではないか」と、語っていた。