京都大学は、腸内ポリアミンが複数の腸内細菌の代謝経路を経由して生合成され、その生合成経路はビフィズス菌などが産生する酸により作動するという一連のメカニズムを明らかにしたと発表した。これは、ビフィズス菌などが作る酸の新規機能の発見を意味するという。

  • ハイブリッド・ポリアミン生合成経路の概念図(出所:京都大学ニュースリリース)

    ハイブリッド・ポリアミン生合成経路の概念図(出所:京都大学ニュースリリース)

同研究は、京都大学生態学研究センターの東樹宏和准教授、協同乳業の松本光晴主幹研究員、石川県立大学の栗原新准教授、理化学研究所の辨野義己特別招聘研究員らの研究グループによるもので、同研究成果は、6月28日に米国の学術誌「Science Advances」のオンライン版に掲載された。

腸内細菌の活動により生成される物質(代謝産物)は、ヒトの健康に大きな影響を与えている。腸内細菌は難培養性細菌も含め1,000種以上が確認され、腸管内ではこれらが複雑に相互作用していると考えられるという。しかし、その複雑さ故に、特定の代謝産物の生合成・放出メカニズムを解明する研究はほとんど行われていないという実態がある。

同研究グループは、ビフィズス菌などの酸生成細菌が産生する酸をトリガーとし、複数の腸内細菌の独立した代謝経路(生き残り戦略)、すなわち、耐酸性機構(酸から身を守るしくみ)とエネルギー産生機構が組み合わさった、プトレッシン放出経路「ハイブリッド・ポリアミン生合成機構」を遺伝子レベルの解析により明らかにした。また、ビフィズス菌などが産生する酸(腸内環境の酸性化)の効果に関して、有害菌の抑制や蠕動運動の活性化がいわれているが、同研究により腸内酸性化の新しい作用(生理活性物質ポリアミンの産生誘導)が明らかになった。

そのほか、腸内細菌の代謝産物の中には、同研究のターゲットであるプトレッシンと同様に、複数の細菌によって産生されている物質が多数存在すると考えられる。これらの代謝産物は腸内細菌の生命現象の副産物として捉えることも重要で、これらの生合成経路は、メタゲノム解析やメタトランスクリプトーム解析により、個々の細菌の生合成遺伝子を対象とした解析で見出される可能性は低く、培養系や遺伝子操作技術を駆使したアプローチが重要であると考えられるという。

同研究成果は、ビフィズス菌などが作る酸の機能として古くからいわれてきた「有害菌の抑制」や「蠕動運動の活性化」とは異なる新規機能の発見を意味するものとなる。また、このハイブリッド・ポリアミン生合成機構は、遺伝子および分子レベルで実証されており、不確定因子が無いことから、ヒト応用研究において、腸内ポリアミン濃度コントロール技術が確立され、保健効果が得られる蓋然性が高いと考えられるということだ。