楽天は今後、広告事業を拡大し、自社サービス内だけでなく外部へも積極的に出稿したり、自社流通網の整備の中でクラウドソーシングも行なったりすることを考えているという。これらの事業においては、モバイルの担う役割、特に位置情報や移動データが大きな役割を果たす。

  • 楽天が計画する広告事業の拡大においてはモバイルの果たす役割は今後さらに重要になる

たとえばNTTドコモは自社網ユーザーの移動データも取得しており、このデータを基にした「モバイル空間統計」を他社に販売しているが、MVNOにもこうしたデータが提供されているかどうかは不明(各社あまり積極的に利用しているところが見られないので、提供されていない可能性が高い)。

楽天がもし直接自社ネットワークで運営した場合、こうしたユーザーの位置データや移動データも取得できることになる。これはマーケティング的に見て非常に重要なデータになるだろう。

結論としては、楽天は携帯電話事業そのもので稼ぐつもりではなく(当然黒字化は視野に入れているだろうが)、そこから得られるデータやシナジー効果の大きさを重要視している。それは現在MNO各社が進めている多角化と目的は同じであり、スタートの方向が逆(既存サービスを繋ぐためのモバイルネットワークの整備)になっているだけなのだろう。

設備投資6000億円は十分か

楽天はMNO事業参入にあたり、新たに全国にネットワークをはりめぐらせるための予算として、サービス開始までに2000億、2025年までに6000億円程度を計画している。

特に後半の「6000億」の数字が一人歩きしているが、楽天側は「あくまで目安であり、実際には上下する可能性がある」とはしているものの、決算では内訳も公開されており、また設備メーカーにはすでに第一次の見積もりも取っているということから、概ねこの範囲になることは間違いない。

  • すでに見積もりも受けており、経験者のリクルートも進行済み。かなりの勝算を持って動いていることがわかる

  • 6000億円の内訳。主に銀行などの融資から調達するという

他のMNOを見てみると、各社とも毎年設備投資費に4000〜5000億円を計上している。これと比べ、楽天の6000億円は2025年までの設備だけでなく、10年ぶんのユーザー増に対応するための予算も含まれている。

単純に割れば2020〜2025年で年間1000億円ということになるが、そもそもほぼゼロからスタートするサービスだ。すでに数千万のユーザーを抱える既存MNOとは、ユーザーの母数が違えば収容ユーザーの設計も異なることから、単純に予算を比較するのは難しい。

それでは似たような規模のサービスはなかったかと過去を振り返ると、イーモバイルとUQ WiMAXの例がある。イーモバイルは、2008年3月期の決算資料によると、モバイル事業向けの設備投資費が四半期で86億円。年間を通じても300億円程度という規模だ。またWiMAXについては、2007年度末時点での計画段階だが、2008年度の商用サービス開始時には東京23区と横浜を中心に、京都、名古屋、大阪などに1000局程度、2009年度に政令指定都市へ3000局程度、2010年度に全国の主要都市をカバーするよう拡大し、トータルで1500億円程度としている。

こうした例を見るに、楽天のMNO事業も、いきなり全国展開するのではなく、おそらくは東名阪を手始めに大都市から地方都市へとネットワークを広げていく計画だと予測できる。単純に予算だけ比べれば楽天のほうが数倍大きいので、最初から大都市圏をカバーする可能性もあるし、用地取得などを考えても現実的な予算だとも思える。