IDC Japanは12月14日、2018年の国内IT市場において鍵となる技術やトレンドなど主要10項目を予測し発表した。今回発表された10項目は、ITサプライヤーベンダーがどういうアクションをとるべきかというものをまとめたもの。
今回のテーマは「DXエコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ」で、DX(デジタルトランスフォーメーション)がキーワードになっている。
IDC Japan リサーチ バイスプレジデント 中村智明氏は、「DXはGDPレベルで経済に影響を与えるため、DXエコノミーと呼んでいる。デジタルネイティブに企業自身が大きくかわっていくべきだ」とアドバイスした。
同社ではDXを「企業がエコシステム(顧客・市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面で顧客エクスぺリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競走上の優位性を確立すること」と定義しているが、中村氏は「DXを従来の改革の延長ととらえている例があまりに多い。顧客エクスペリエンスの変革が念頭にないのは問題だ」と指摘した。
同社が2018年 国内IT市場の主要10項目として発表したのは、以下の10項目。
①デジタルネイティブ企業が出現し、デジタルの文化を持つベンチャー企業と組んだ新ビジネスの創出が始まる
②企業の成長と存続を左右するDXへの支援能力が、ITサプライヤーの選択基準になる
③労働生産性の向上や柔軟な働き方の必要性が企業で高まり、働き方改革に向けたICT市場が成長する
④発展が続くクラウドは第2世代(クラウド2.0)に進化し、IT変革が加速する
⑤国内のIoT利用企業の1割が、データ流通エコシステムを通じ既存事業以外への事業領域の拡大を図る
⑥コグニティブ/AIシステムが普及期に入り、2018年には2017年の2倍に市場が拡大する
⑦GDPRによるデータ主権の脅威に企業がさらされ、データ保護に対するブロックチェーンの有効性が試される
⑧エンタープライズインフラストラクチャ支出モデルの多様化が進むと共に、ベンダー間の競争力の差が広がる
⑨AR/VRの業務利用がIT導入に積極的な企業で本格化し、音声インターフェースの業務活用がスタートする
⑩企業の情報システム部門/情報システム子会社向けの組織変革コンサルティングのニーズが拡大する
①デジタルネイティブ企業が出現し、デジタルの文化を持つベンチャー企業と組んだ新ビジネスの創出が始まる
IDCではDXの新ビジネスモデルを「FoC(Future of Commerce:コマースの未来)」モデルと呼んでいる。中村氏は、FoCを実現するために、既存の事業を離れて新しいことを行おうとしたときには、IoT、モバイル、クラウド、AIのように複数の技術を組み合わせないと解を生み出せないと指摘した。そして、大企業とベンチャーが組んでのビジネス創出が始まると予測した。
②企業の成長と存続を左右するDXへの支援能力が、ITサプライヤーの選択基準になる
これについて、中村氏は「AIやIoT、クラウドといった技術を相談できるのであれば、企業サイズは問わない。これらをワンストップで相談できる相手が求められている。この動きは今後広がっていき、そういう人材が求められるようになる」と語った。
そのためITサプライヤーは、技術軸、産業分野軸のサイロからの脱却(横断的にわかる人材の育成)、ベンチャースピリットをもった専門家集団の組織化、顧客企業トップのコミットメントの確認、レガシーシステムのモダナイゼーションをすべきだという。
③労働生産性の向上や柔軟な働き方の必要性が企業で高まり、働き方改革に向けたICT市場が成長する
IDCでは働き方改革を支援するICT市場は、2016年に1兆8210億円だったものが、2021年には2兆6622億に拡大すると予測しており、とくに、ソフトの伸びが大きいという。
これに対し、ITサプライヤーは働き方ソリューションの自社ないでの検証による定位量的な効果測定や自社だけでなく、他社のソリューションとの組み合わせるトータルソリューションの提供が必要だという。
④発展が続くクラウドは第2世代(クラウド2.0)に進化し、IT変革が加速する
クラウドは多様なビジネスニーズに対応するために発展しており、第2世代となるクラウド2.0へと進化を始めたとIDCはみている。クラウド2.0において、最も注視すべき動向が「分散」と、それに関連して発展する「ハイブリッドクラウド」「ハイパーアジャイルアプリケーション」「DevOps/誰もが開発者」だという。
これ対しITサプライヤーは特定の分野での競争力強化と、新しいスキルの習得、API評価システムの実装を行うことを提言している。
⑤国内のIoT利用企業の1割が、データ流通エコシステムを通じ既存事業以外への事業領域の拡大を図る
「IoTに積極的に取り組む企業」と「IoTに対して様子見を続ける企業」に分類する場合、両者を分ける最も大きい要因の一つはROI(投資対効果)だという。そしてIDCでは、各産業の企業は既存の競争ドメインだけでなく、他産業を含めて水平展開を行いIoTの活用を広げることが、投資のリスクヘッジを保ちつつ、効果的にデジタルビジネスの収益性を高める有効な手段になるとみている。
⑥コグニティブ/AIシステムが普及期に入り、2018年には2017年の2倍に市場が拡大する
コグニティブ/AIは、POC(Proof of Concept:実証実験)が大多数を占めていたが、2018年以降は、AIの効果的な適用領域を見付け出して、本格導入フェーズに移行するとIDCでは予測している。そして、AIはその適用範囲を広げ、IoTやOTを含むあらゆるアプリケーションで活用されるとIDCではみており、これを「パーベイシブAI」と呼んでいる。こうしたAIの適用領域の拡大は、働き方改革の本格化を迎える2018年~2019年には東京オリンピック/パラリンピック向けの投資と共に、急速に普及するとIDCではみており、2017年の市場規模275億円から2018年には549億円と約2倍の規模に急成長し、2019年には1,000億円を超える規模になると予測している。
これに対して、ITサプライヤーは、AIのコンサルティング能力の増強、他のAIとの連携による能力の拡大、RPAにより自動化ソリューションの提供を図るべきだと提言している。
⑦GDPRによるデータ主権の脅威に企業がさらされ、データ保護に対するブロックチェーンの有効性が試される
2018年5月に施行が予定されているEUの一般データ保護規則(GDPR)は、海外のパーソナルデータを移動させたとしても、パーソナルデータの所有者の居住場所の法律が適用されるデータ主権の概念に基づいた法規制。シンガポールの個人情報保護法(PDPA)など海外でのデータプライバシー法は、データ主権に基づいた法規制になりつつあり、プライバシー保護に対して厳しくなっているという。このため、企業における顧客や社員のパーソナルデータの取り扱いは、管理責任の明確化や、個人データの取り扱いの厳格化など、プライバシー保護を考慮したビジネスプロセスの見直しが必要となり、サイバーセキュリティとデータ保護のテクノロジーを導入し、厳密なデータ活用を実施していくことが求められるという。
これに対して、ITサプライヤーは、法務部門を巻き込んだセキュリティ対策の訴求、ビジネスプロセスに沿ったパーソナルデータ保護策の提案が必要だという。
⑧エンタープライズインフラストラクチャ支出モデルの多様化が進むと共に、ベンダー間の競争力の差が広がる
国内エンタープライズインフラストラクチャ市場の支出額(サーバー、ストレージ、イーサーネットスイッチ)のマイナス傾向が続く中で、エンタープライズインフラストラクチャに対する支出モデルの多様化が進むと共に、最新テクノロジーの採用がエンタープライズインフラストラクチャの市場構造を変えていき、2018年はそうした変化が加速し、ベンダー間の競争力の差が広がる年になるとIDCでは考えているという。
IDCは多様な支出モデル(またはその組み合せ)を提供できるベンダーはより多くのビジネス機会にリーチすることが可能になり、ユーザー企業のインフラストラクチャの選定に関わるパートナーとしての信頼を獲得できると予測。そして、多様な支出モデルの提供能力が、中長期的にはエンタープライズインフラストラクチャ市場におけるベンダーの競争力に大きな影響を与えると考えているという。
⑨AR/VRの業務利用がIT導入に積極的な企業で本格化し、音声インターフェースの業務活用がスタートする
VR技術のビジネス利用はさらに加速することが見込まれ、特に2018年は今後のビジネス利用拡大の素地を確立するためのUI(User Interface)に関する技術の標準化がスタートするとIDCではみている。
ARヘッドセットは製造上の難易度や価格の問題などもあり、2017年まではユーザーの裾野の広がり方に停滞が見られる場面もあったが、2018年は初期段階とはいえAR技術のビジネス利用の展開に弾みがつくとIDCでは予測している。
すでに、LINEやFacebook MessengerなどのSNS(Social Networking Service)やメモなどを取るモバイルアプリ上で、音声入力/文字読み上げ/翻訳など音声インタフェースが利用できるようになっていることから、今後業務での活用が進むとみている。
これに対し、ITサプライヤーは、AR/VR UIの標準化、導入効果をROIで示すためのPOCの推進、高齢者、未就学児の音声ニーズを捉えたユースケースの開発が必要だという。
⑩企業の情報システム部門/情報システム子会社向けの組織変革コンサルティングのニーズが拡大する
DXが企業の戦略的な課題に上ることが増える中で、クラウド、AI、IoTなど新たなデジタルITに対する理解、それらをビジネスに生かすための適切な導入手法、自社事業への深い知識、そしてなにより業務の「変革」を手掛けていく能力など、DXが要請するスキルや能力と、これら部門/子会社が持つスキル、能力とのミスマッチが顕在化しているという。
これに対し、ITサプライヤーは、現状を認識して課題を把握する、CIOとの課題の議論を深め、共創のアプローチを活用することが必要だという。
そして、業情報システム部門と、ITサプライヤー、さらには情報システム子会社、経営者、事業部門、DX推進部門などが情報システム部門/子会社の在り方を一定の時間をかけて議論し、作り上げていくことは、まさに「共創」が成し遂げるべき重要課題であるとしている。