日本に存在する様々なビジネスの中で、たばこビジネスほどマーケティングに様々な制約が存在するものはないだろう。インターネット広告も含めて対外的な広告宣伝は厳しく規制され、オウンドメディアの閲覧には身分証明書の提出を必須とする会員登録を求める。しかし、その中で各社は愛煙家を対象とした厳しい顧客争奪戦をしなければならない。

当然、たばこビジネスにおいて「たばこを吸いましょう」という新たな喫煙者の創出を推奨することはできない。たばこビジネスにおけるマーケティングとは、既にたばこを愛用している喫煙者のみが対象となる。そのミッションは、自社製品を愛用している顧客のロイヤリティを最大化することであり、また他社製品を使用している顧客を自社の顧客にリプレイスすることなのだ。

こうした市場環境において、長年日本のたばこビジネスを牽引してきた日本たばこ産業(JT)は、テクノロジの進化によって蓄積される顧客データをどのようにマーケティングに活かそうとしているのだろうか。同社たばこ事業本部マーケティング&セールスグループ マーケティング戦略部の主任である平谷朋也氏とIT部の課長代理である田中耕太郎氏に話を伺った。

JT たばこ事業本部マーケティング&セールスグループ マーケティング戦略部 主任 平谷朋也氏(右)とIT部の課長代理 田中耕太郎氏(左)

オフライン中心のコミュニケーションで社内に散在していた顧客データ

JTがオウンドメディアの強化を推進し始めたのは2013年頃。現在では、各ブランドの公式サイトやキャンペーンサイト「Jminutes」、加熱式たばこ「Ploom TECH」の公式サイト、愛煙家向けにライフスタイルを提案する「ちょっと一服ひろば」など様々なオウンドメディアを展開している。JTが運営する全てのたばこ関連サイトの閲覧には、「JTスモーカーズID」という成人喫煙者に発行している会員IDが必須だ。

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「以前は、顧客へのコミュニケーションはサンプルの送付やDM送付など郵送を中心としたものがほとんどで、デジタルマーケティングはほとんど行ってきませんでした」と平谷氏は振り返る。

成人の愛煙家であること、顧客の所在をある程度正確に把握できていることなどを背景に、直接オフラインでアクセスするコミュニケーションを展開してきたのだ。

ただ一方で、こうして蓄積されていく様々なデータをもっと有効に活用したいという課題は持ち続けていたという。

「本格的に考えるようになったきっかけは、主要商品のパッケージにユニークなQRコードを印刷し、JTスモーカーズIDでポイントが貯まる仕組みを導入した2014年頃です。この施策で、いつ誰にどの銘柄が消費されているかがある程度見えるようになり、顧客の喫煙スタイルに関するデータが大量に貯まるようになりましたが、アンケートで聞いている日常的に吸っている銘柄を含めて、データを活用できていないという課題がありました」と平谷氏は振り返る。

オウンドメディアを強化して施策をデジタル化していく段階でリアルタイムなデータを基に軌道修正していく仕組みがなかったのだ。

「まずは、社内で保有するデータを一元化しなければと考えました」(平谷氏)

こうした考えから、同社はトレジャーデータのTREASURE CDPを導入することになる。平谷氏と田中氏は、トレジャーデータを選んだ理由について、導入までのスピード感と柔軟性を挙げている。

「なるべくクイックに情報の一元化を始めて、運用の中で改善していこうと考えました。また、デジタル施策を強化する中でオウンドメディアのアクセスログなども収集していきたいと考えていたため、データ収集の部分でも迅速に始められる仕組みを必要としていました。データ容量を気にせず自由に使えることもポイントでした」(田中氏)

「たばこはネット広告を積極的にすることができないため、アドテクノロジーとしてDMPを活用するというより、いま保有している様々な情報を集約して分析しやすくする環境を作りたかった。他社はデータ容量に制限があったり、導入手法が明確でなかったりしたが、トレジャーデータは導入方法や活用方法が明確に示されていた」(平谷氏)