京セラコミュニケーションシステム(KCCS)と筑波大学(医学医療系皮膚科 藤本学教授、藤澤康弘講師)は7月26日、AI(人工知能)を活用した画像認識による医師向けの業界標準となる皮膚疾患診断サポートシステムの実用化を目指し、共同研究を開始した。

近年、AIや画像認識技術の進化、IT環境の整備により、画像などの非構造化データのAIを活用した分析が可能となっており、レントゲン写真をはじめ画像の取り扱いが多い医療分野では、AIを活用した画像認識技術の実用化が期待されている。

また、厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」ではAIの医療分野への適応について議論が開始されており、AIの活用が想定される領域として具体的に皮膚病の画像診断が挙げられている。

理由としては、皮膚病は臨床像から診断をすることが多いことから、診断の精度が医師の経験により左右され、特に早期発見が重要である皮膚がんの患者数は1999年から2014年にかけておよそ2倍(厚生労働省 患者調査)に増加しており、高度な診断の支援を可能にする医師向けの診断サポートシステムを求める動きが大きくなっているという。

今回の研究では、皮膚病の臨床画像をディープラーニングで学習し、メラノーマ(悪性黒色腫)などの皮膚がんをはじめとする複数の皮膚腫瘍を判別する「高精度な画像認識モデル」を開発する。その後、皮膚がん以外の皮膚病に適用範囲を拡大し、臨床画像から皮膚病全般の診断をサポートするシステムを開発していく。

皮膚疾患診断サポートシステムの概要

これにより、皮膚科専門医の診療支援に役立つことに加え、皮膚科専門医がいない医療過疎地や専用機器がない環境において、市販のデジタルカメラやスマートフォンで撮影した画像でも診断のサポートができる簡易型診断サポートシステムの構築もできるという。これらのシステムにより、専門医が不足しがちな地方の医療現場における皮膚疾患診断をサポートし、皮膚科専門医の受診が必要な患者を早い段階で見つけることで医療レベルの向上に貢献していく考えだ。

共同研究にあたっては、KCCSは画像認識モデル作成サービス「Labellio」の提供や画像認識システムの構築で培ったノウハウを活かし、システム開発を行う。一方、筑波大学は日本皮膚科学会の認定主研修施設である筑波大学附属病院皮膚科において蓄積した2万枚を超える膨大な臨床画像データを、AIの機械学習に用いる教師データのために提供するとともに、皮膚疾患診断サポートシステムの精度評価、医療現場における適応性の評価を行う。

両者は、2017年3月から2018年3月にかけて共同研究を行い、3年後の実用化を目指すとともに、将来的には両者の知見を合わせることで2000以上の皮膚疾患が判別できるシステムを目指し、研究開発に取り組む。今回の取り組みを通じて、皮膚疾患診断におけるAI活用の幅広い可能性を探るとともに、よりよい医療や福祉への貢献を目指す。