コストメリットのある全社共通基盤構築に向け、ハイブリッドクラウドへ

富士ゼロックスは2010年からプライベートクラウドの活用を開始した。それまでは部門ごとに必要なシステムを考え、IaaSやサーバを選択して導入するという状態にあったが、全社共通の基盤を構築したいという構想があったという。そのために野村総合研究所(NRI)の提供する「mCanvas」を選択したわけだが、これを全社で共通展開するにあたっては課題がいくつかあった。特に重要だったのが、コストにまつわる課題だ。

「当初、リスクを優先するためにオーバースペックなシステムを構築する傾向が強く、初期投資が過剰になっていました。また、部門ごとに利用している形態もコスト高になってしまっていました」と語るのは、富士ゼロックス ソフトウェア開発本部 ソリューション開発部 クラウド統括(CCoE)の黒須義一氏だ。

富士ゼロックス ソフトウェア開発本部 ソリューション開発部 クラウド統括(CCoE) 黒須義一氏

固定費率よりも変動費率の高い構造を目指すと同時に、プライベートクラウドのユーザーに意見の聞き取りを実施。機能面などに対する要望もくみ取り、AWSを組み合わせたハイブリッドクラウド環境を構築したのが2014年3月のことだ。

「全部門の要望をかなえないと、IT基盤の共通化はできません。機能面とコスト面の課題を解決できるパブリッククラウドがAWSでした。最も機能が多く、ノウハウも公開されており、導入パートナーも多かった。そして、ユーザーコミュニティも充実しており、学習の場が幅広く用意されていたのも魅力でした」と黒須氏は語る。

さらなる可能性を求め、GCPを加えてマルチクラウド環境を

約2年半、プライベートクラウドとAWSを組み合わせてビジネスを展開してきた富士ゼロックスが、2016年9月に新たなクラウド活用に乗り出した。パブリッククラウドの選択肢として「Google Cloud Platform(GCP)」を取り入れたのだ。

「データセンター上で稼働していたシステムを積極的にクラウドへ移行していたのですが、あるシステムの移行にあたって問題が生じました。AWSで利用するには改修しなければならなかったのです。改修のコストでAWSを使うコストメリットがなくなってしまう。だから、データセンターに残しておきます、というのです。そこで、AWS以外の方法があるのではないかと考え始めました」と、黒須氏はGCP導入のきっかけを振り返る。

ちょうどその頃、GCPに東京リージョンが追加されるという情報が公開されていた。機能面でも、AWS同様のセキュリティ施策を盛り込めることがわかったほか、あるサービスでは既存の外部仕様を変えずに、 そのままクラウド移行できそうであるというニーズを確認し、GCPの導入を決定したという。

「さらに、社内においてクラウドベンダー6社を集めたイベントを行いました。 GCPは、エンジニア向けのアンケートで使ってみたいクラウド上位にも食い込みました。今見えているニーズとこれらのニーズの両面が見えたため、 GCPの導入を決定すると、GCPを使いたいという要望が各方面から出てきたのです」と黒須氏は語る。

管理と経理が一本化されることの大きなメリット

2017年6月時点、プライベートクラウド上のシステム、AWS、GCPの利用は、テナント数で3対6対1程度になっているという。積極的なパブリッククラウドの利用を推し進めた結果、AWSでは100弱のシステムが稼働するようになり、GCPも数は少ないながらも利用が加速している状態だ。

「コストで見ると、プライベートとパブリックの割合が逆転する状態です。コストは全体で30%以上下がっています。データセンターやオンプレミスからの移動によるコスト削減も大きいですが、従来はリスク対応のためにマージンを作らなくてはならなかったところをAWSならスモールスタートが可能です。ユーザーが急増した時のために備えておくのではなく、その時必要になったら増やせばいいという使い方ができるのは便利です。でも、社内に向けて、コスト削減を意識しろと言ったことはないんですよ」と黒須氏は言う。

これは、AWSもGCPもNRIの「mCanvas」の枠組みで利用しているからこそ、可能な仕組みでもあるようだ。ユーザーはAWSやGCPを利用する際にアカウントの取得を申請するが、個別に決済は行わない。「mCanvas」のマルチクラウド構成の中に、プライベートクラウドとAWS、GCPが組み込まれている形であるため、単一のサービスの機能のような形で使えるのだ。

「セキュリティやネットワークセグメントの切り分けなどの管理をNRIに委託しています。そのため、そのままのAWSを使うよりは自由度が下がるのですが、請求書は一本化されます」と黒須氏。ユーザースキルに応じて利用者自身で設定できる範囲が広く開発向きなセルフタイプと、本番運用向けに権限を制限して管理をNRIに委託するマネージドサービスを用意するなど、支援も充実させている。

富士ゼロックスのハイブリッドクラウド環境