情報通信研究機構(NICT)は、超小型衛星「SOCRATES(ソクラテス)」を使い、NICT光地上局(東京都小金井市)との間で、光子一個一個のレベルで情報をやり取りする量子通信の実証実験に成功したことを発表した。
SOCRATESは、重量50kg、サイズ50cm角という衛星量子通信用途としては世界最軽量・最小サイズの超小型衛星。これには、NICTが開発した小型光通信機器(SOTA)が搭載されており、NICTではそこからふたつの偏光状態に0,1のビット情報をランダムに符号化した信号を、毎秒1000万ビットの速度(10メガビット/秒)で地上局へ送信した。
その信号は、東京都小金井市にあるNICT光地上局にある口径1mの望遠鏡で受光し、量子受信機まで導波して、光子一個一個の到来を検出しながら信号を復元することで、高度600kmを秒速7kmで高速移動する衛星との量子通信を実現した。
地上局に届いた信号には、パルス当たり平均0.1光子という微弱なエネルギーしか含まれていない。NICTは、この微弱信号を低雑音で検出できる量子受信機と微弱な光子検出信号から、直接、衛星・地上局間での時刻同期および偏光軸整合を確立する技術を開発し、重量50kgの超小型衛星による量子通信を実証した。これは、従来の衛星光通信よりさらに高効率な通信や、情報漏えいを完全に防ぐ量子暗号の基盤技術となる。
今回開発された衛星量子通信技術は、これまで多額の予算と大型衛星が必要だった衛星量子通信を、より低コストの軽量・小型衛星で実現することを可能とする。これは、多くの研究機関や企業でも開発が可能になることが期待される。さらに、限られた電力で超長距離の通信が可能となることから、探査衛星との深宇宙光通信の高速化にも道を切り拓き、超長距離・高秘匿な衛星通信網の構築に向けた大きな一歩となると説明している。
NICTは今後、さらなる光子伝送の高速化と捕捉追尾技術の高精度化による衛星・地上間での量子暗号の実現と、将来的には衛星コンステレーション上での安全な鍵配送や大容量通信の実現を目指すということだ。