物質・材料研究機構(NIMS)は、同機構構造材料研究拠点の染川英俊グループリーダーが、室温で鍵盤アコーディオンのような蛇腹状に変形可能なマグネシウム合金の開発に成功したことを発表した。この成果は、日本金属学会欧文誌「Materials Transaction」に5月26日にオンラインで公開されたほか、6月25日発行号(Vol. 58, Issue 7)でも掲載される。

円筒形試験片を用いた場合の圧縮試験後の外観写真(出所:NIMSニュースリリース)

マグネシウムやマグネシウム合金は、実用金属材料の中で最も軽く、自動車や鉄道車両などを軽量化するための材料として注目されている。しかし、室温では大きな力を加えてもわずかに塑性変形するだけで、瞬時に壊れてしまうため、安全上、自動車などの部材としては使いづらかったり、複雑な形状に加工できなかったりという問題があった。

マグネシウムに極微量のマンガンを添加したマグネシウム合金鋳造材を準備し、鋳造材を200°C程度に加熱して押出加工を行い、結晶粒のサイズを5μm以下にした。この開発材を使って室温で大きな力を加えた際の変化を、市販のマグネシウム合金と比較したところ、市販材は斜めにき裂が入って一瞬で破壊した一方で、開発材は急には壊れることはなく、蛇腹状(および樽状)に変形できることがわかったという。

これは、力を加えてもクッションのようにエネルギーを吸収し、破壊が起こりにくくなっていることを示唆している。実際に、開発材の破壊に対する吸収エネルギーを調査したところ、既存材に比べて3倍以上優れていたという。これらの現象は、押出加工によって小さくなった結晶粒の間にマンガンが集まり、結晶粒が互いに滑りあう粒界すべりが促進されて起こることがわかったということだ。

この開発材は、色々な方向から力を加えても瞬時に破壊されることはなく、変形しやすくなることから、自動車や車いす、鉄道車輛の座席、自転車のフレームなどの軽量化が期待できるとしている。今後、研究グループはこの成果をもとに、安心・安全を確保するための衝撃吸収マグネシウム合金や、室温で複雑な形状に加工できるマグネシウム合金としての応用を目指していくということだ。