米空軍の小型無人スペースプレーン「X-37B」が5月7日、4回目のミッション(OTV-4)を終えて、地球に帰還した。X-37Bは2015年5月に打ち上げられ、宇宙飛行の帰還は約2年にもわたった。この間、X-37Bが宇宙でいったいなにをしていたのか、そもそもなんの目的で運用し続けているのかは謎に包まれているが、一方で米空軍は今回、ごく一部ではあるものの、初めてその内容を明らかにした。

地球に帰還したX-37B OTV-4 (C) U.S. Air Force

帰還後のX-37B OTV-4に近づく作業員たち (C) U.S. Air Force

X-37B OTV-4は2015年5月21日(日本時間、以下同)、「アトラスV」ロケットに搭載され、フロリダ州にあるケイプ・カナベラル空軍ステーションから打ち上げられた。そして約2年にわたって宇宙を飛行したのち、5月7日の21時ごろ、ケネディ宇宙センターのシャトル着陸施設(滑走路)に着陸した。

2年もの間、X-37Bが宇宙でなにをしていたのか、その多くは明らかにされていない。着陸後、米空軍は「我が国が宇宙において進歩を続けるために必要な、柔軟性と不屈さを実証した」という、中身のほとんどない声明を発表している。

X-37Bの開発の経緯、過去のミッションについては、拙稿「謎に包まれた米空軍の宇宙往還機X-37B - その虚構と真実」を参照していただければと思う。

今回は、この記事以降新たにわかったことや、OTV-4ミッションの顛末について解説したい。

X-37B

X-37Bは米空軍が運用する無人の宇宙往還機、いわゆるスペースプレーンである。もう少しくだけた言い方をすると、小型の無人スペース・シャトルとも呼べる。

実際、大きな翼をもっているところや、背中にペイロード・ベイ(貨物室)があるところなどは、かつてNASAが運用していたスペース・シャトルに似ている。ただ実際に比べると、大きさは大人と子供ほども違いがあったり、人は乗れないものの、代わりに完全に無人で飛行ができるなど、違いも多い。

X-37BはアトラスVロケットの先端に搭載されて、宇宙へ打ち上げられる (C) ULA

ロケットのフェアリングに収められるX-37B (C) U.S. Air Force

X-37Bの計画は、もともとは1999年に、米国航空宇宙局(NASA)の新型宇宙機の開発計画として立ち上げられた。しかしその後NASAは手を引くことになり、開発のパートナーでもあった米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が引き取り、米空軍が運用を担うことになった。機体の開発、製造は、ボーイングの研究開発部門である「ファントム・ワークス」が一貫して担当している。

X-37Bはこれまでに2機が建造され、今回を含めて累計で4回飛行している。各ミッションは、X-37Bの名前のあとにくっついている「OTV-数字」で呼び分けられている。OTVというのは、Orbital Test Vehicle(軌道試験機)の略で、末尾にはミッションごとに数字がつく。

最初のミッションとなるOTV-1は2010年4月に始まり、224日にわたって宇宙を飛行した。これはスペース・シャトルの1回あたりの飛行日数よりはるかに長いものの、もともとボーイングなどは「X-37Bは270日の宇宙飛行が可能」と公表していたこともあり、特段おかしなことではなかった。

ところが、続いて2011年3月に打ち上げられたOTV-2では468日、さらに2013年に打ち上げられたOTV-3では674日を記録するなど、公称値をはるかに超える性能を見せつけた。そして今回のOTV-4ではさらに記録を更新し、約2年近い、717日と20時間42分にわたって宇宙を飛行し続けた。

ちなみに米空軍は、どのミッションでどの機体が使われたかは明らかにしていないが、OTV-1と3では1号機、OTV-2と4では2号機が使われたと考えられている。

OTV-4の着陸後、米空軍は「X-37Bの5回目のミッションは2017年末に予定している」と明らかにしている。おそらくこれは1号機の3回目の飛行になるだろう。

軌道上でのX-37Bの想像図。ただしあくまで想像図であり、ボーイングが制作したものでもあるため、これが真実とは限らない (C) Boeing

X-37BはNASAのスペース・シャトルのように、滑空して滑走路に着陸する (C) U.S. Air Force

初のケネディ宇宙センターへの着陸

宇宙飛行の日数を更新しただけでなく、今回のOTV-4ではもうひとつ目新しいことがあった。

これまでのOTV-1から3はすべてカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地に着陸していたが、今回のOTV-4では初めて、ケネディ宇宙センターのシャトル着陸施設に着陸したのである。

シャトル着陸施設というのはケネディ宇宙センターにある長い滑走路とその周辺施設のことで、かつてNASAのスペース・シャトルの着陸で使われた場所でもある。

なぜ今回、ケネディ宇宙センターに着陸したのかは不明である。ただ、ボーイングは2014年に、NASAからシャトル用の整備棟を借り受け、X-37B用に改修しており、今回はその改修後、初のミッションでもあった。そもそも打ち上げもケネディ宇宙センターに隣接するケイプ・カナベラル空軍ステーションから行われることからも、今後はケネディ宇宙センターを拠点にして運用されることになるのかもしれない。

ただし、今後ヴァンデンバーグ空軍基地に降りる可能性がなくなったわけではなく、たとえばケネディ宇宙センターが悪天候などで着陸できなくなったり、あるいは軌道やミッションの特性によっては、ヴァンデンバーグを使うこともあるかもしれない。

着陸後、整備棟へ向け移動するX-37B OTV-4 (C) U.S. Air Force

この整備棟はかつて、NASAのスペース・シャトルが使っていたもので、2014年にX-37B用に改修された。軍用シャトルの施設とは思えない扉に注目 (C) U.S. Air Force

相変わらずの謎だらけのミッション

X-37Bは、米空軍のスペースプレーンという位置づけや、その特異な姿かたちなどから、打ち上げや着陸時のみならず、宇宙を飛行している間にもたびたびメディアに取り上げられるなど、ある意味では人気の高い宇宙機である。しかし、その注目度とは裏腹に、X-37Bの正体についてはほとんどといっていいほど明らかにされていない。

そもそも目的からしても、米空軍は「米国の将来の宇宙活動に役立つ、再使用可能な無人のスペースプレーンの実証」、もしくは「実験物を地球に持ち帰ることができる宇宙実験プラットホームとして運用」としか語っていない。

その言葉を素直に解釈するなら、まずX-37Bのような翼をもった再使用宇宙機を運用することそのものが目的であり、それと同時に、背中にあるペイロード・ベイになんらかの装置などを積み、それを宇宙で実験、試験する、宇宙実験室として利用することも目的のひとつであると考えられる。

ただ、このX-37Bの先にどのような展開を考えているのか、たとえば有人宇宙船にするつもりがあるのか、それともX-37Bをずっと使い続けるのかといったことや、ペイロード・ベイにいったいなにが入っていて、宇宙でどのような実験や試験をしているのか、といったことはほとんど明らかにされていなかった。

唯一わかっていたことは、宇宙を飛行中に何度か軌道を変えているということくらいだった。これはX-37Bのような人工衛星の軌道を追跡している愛好家らが明らかにしたものだが、もちろん「なぜ軌道変更したのか」という肝心な問いは謎のままだった。

今回のOTV-4ミッションでも、その詳細はほとんど明らかにされなかった。しかし"ほとんど"であり、すべてではなかった。今回、米空軍は初めて、X-37Bが宇宙でなにをやっているのかについて、ほんの少しだけではあるもののその手の内を明らかにしたのである。

着陸したX-37B OTV-4。大気圏再突入時の加熱の影響か、機体の白い部分が少し焦げている (C) U.S. Air Force

機体の後部には軌道を変えるためのスラスターが装備されている(写真はOTV-3のもの) (C) U.S. Air Force

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参考

X-37B Orbital Test Vehicle > U.S. Air Force > Fact Sheet Display
United Launch Alliance Successfully Launches X-37B Orbital Test Vehicle for the U.S. Air Force - United Launch Alliance
X-37B Orbital Test Vehicle
NASA - X-37 fact sheet (05/03)
X-37B spaceplane returns to Earth and makes autopilot landing in Florida - Spaceflight Now