ユタ大学の研究チームは、人体に無害な物質だけで構成された熱電変換材料の開発に成功したと発表した。カルシウム、コバルト、テルビウムを組み合わせた安全かつ安価な材料で、物体の温度差を発電に利用することができる。研究論文は、Nature系列のオープンアクセス誌「Scientific Reports」に掲載された。
熱電効果は、物体中に温度差があるとき高温部から低温部へと電子の移動が起こることによって、電圧が生じる現象である。熱電変換材料は、この効果を利用して電気エネルギーを作り出すものであり、1℃以下といった小さな温度差からも検出可能な電圧を生じることができる。
これまでに知られている熱電変換材料には、カドミウム、テルル、水銀など、人体に有害な物質を利用しているものが多い。このため、熱電変換効率の高さと無毒性、環境親和性を両立させた熱電変換材料の開発が望まれている。
今回作製された熱電変換材料は、カルシウム、コバルト、テルビウムなどで構成されており、人体に対して安全なものであるという。このため、同材料で作ったアクセサリーを身に着けるなどして、体温を利用した発電を行うこともできるとする。研究チームは、同材料の応用分野として、体内埋め込み型医療デバイス(血糖値モニターや心臓モニターなど)への電源供給を体温発電によって行うといった用途を挙げている。
フライパンや自動車エンジンなどの熱を使って携帯機器の充電を行うといった利用も考えられる。航空機では客室内と外気の温度差が大きくなるため、多くの電気エネルギーを取り出せる可能性がある。また、火力発電所では、燃料として投入されたエネルギーのうち60%程度が、電気として利用されずに熱として排出されているとされる。熱電変換材料を利用することで、排熱の何割かを発電に利用できるようになる可能性がある。
論文によると、多結晶Ca3Co4O9にテルビウムをドーピングすることで、同系列の材料では最高値となる熱電変換性能指数ZT=0.74(@800K)を記録した。これまでにも単結晶Ca3Co4O9では高いZT値が報告されていたが、量産時の材料コストを考えると、安価な多結晶材料で高効率の熱電変換を実現することが重要であるとしている。