イェール大学の研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データをもとに、これまでで最高の解像度となるダークマター分布マップを作成した。重力レンズ効果を利用した遠方宇宙観測プロジェクト「フロンティア・フィールド計画」で得られたデータが利用されている。研究論文は「英国王立天文学会月報」に掲載された。

今回作成されたダークマター分布図。ダークマターは全体として滑らかに堆積しており、その上に局所的な凝集点が形成されている(出所:イェール大学)

天体などの重力の影響によって空間に歪みが生じ、地球に届く光の進路が湾曲する「重力レンズ効果」を利用して、目に見えない重力源であると考えられているダークマター(暗黒物質)の分布を詳細に調べる研究が続けられている。今回は、3つの銀河団による重力レンズ効果に注目し、銀河団の内部でのダークマターの粒度をマップ化することに成功したという。銀河団の中であちこちに凝集して存在していると考えられるダークマターの様子が、これまでにない解像度で図像化されている。

ダークマターは電磁波を反射も吸収もしないため、通常の観測手段では検出ができないとされる。ただし、重力に対しては相互作用するため、重力レンズ効果などを利用することで、見えない重力源の位置を特定することができると考えられている。天体の動きなどの観測結果からは、全宇宙の物質の80%がダークマターで占められていると予想されている。

しかし、実際にダークマター粒子を捕獲検出する実験に関しては、これまでのところまったく成功例がない。研究チームの天体物理学者Priyamvada Natarajan氏も、「宇宙におけるダークマターの存在量やその分布状態については精密に測定できるようになってきたが、ダークマター粒子そのものについては謎のままだ」とコメントしている。

研究チームが今回作成したダークマター分布図は、「冷たいダークマター粒子」と呼ばれる未発見粒子を想定した理論モデルによるコンピュータシミュレーションと非常によく一致しているという。冷たいダークマター粒子は、光速と比較するとゆっくりと動くと考えられており、素粒子物理学上の仮説である超対称性理論で存在が予言されている超対称性粒子「ニュートラリーノ」などが候補物質として挙がっている。

冷たいダークマターとダークエネルギーの存在を織り込んだ宇宙模型は「ΛCDMモデル」と呼ばれ、ビッグバンから宇宙の大規模構造が形成されるまでの宇宙の進化を上手く説明できるため、現代宇宙論の標準的な理論モデルとなっている。「これまでのところ、ダークマターに関するすべての証拠が間接的なものであることを考えれば、ΛCDMモデルと今回のダークマター分布図との一致は注目に値する」と研究チームは述べている。