徹底的にこだわり続ける- それが「粋」
Webブラウザにタブという機能が実装された最初のメジャーなブラウザはOperaだ。当時のOperaはほかのブラウザにはない新機能、さらには「新たな概念」を次々に生み出しては実装し、当時のOperaユーザーを熱狂させた。以降、Operaが実装した概念はほかのメジャーなブラウザが相次いでまねしたものだ。
今では、タブインタフェースはWebブラウザのみならず、さまざまなアプリケーションが利用する普遍的なインタフェースの1つになっている。もっとも、毎日何かしらの形でタブを使っているにもかかわらず、ブラウザの本質はタブインタフェースが登場してからほとんど変わっていないように思える。
しかし、タブインタフェースをブラウザで発明したバイキングたちはそうは思っていないようだ。本人たちはあまり認識していないようだが、「タブインタフェース」という概念がまた1つ別のあり方に変わろうとしている。
イノベーションというのは、作っている側はよくわかっていないことが時にある。「これが便利だから作ろう」「まずは、やってみよう」、そうした小さな改善の積み重ねが、いつのまにかイノベーションと呼ばれるものになることがあるのだ。当事者としては変わらない日常でしかないものが、離れた場所にいた人が見た時に、異質な新しい何かが一気にやってきたように見える。それが、今、起こっているようだ。
そんな胸が躍るようなことが起こっているアプリケーションの名前は「Vivaldi(ヴィヴァルディ)」という。
日本からの期待を背負う、新進気鋭のブラウザ「Vivaldi」
昨春に初のメジャーバージョンがリリースされた新たなWebブラウザ「Vivaldi」。世界中でこのブラウザを最も使っているのは日本のユーザーだということをご存じだろうか。製品の開発にこだわりを持ち続けること、最速であり続けること、そしてオリジナルであり続けること。その揺るぎない信念の下で開発されているVivaldiは、同じく製品に対して強いこだわりを持つ日本のユーザーから高い支持を得ている。
発表当初、Vivaldiはレンダリングエンジンが切り替わる前のOpera 12の推定ユーザー数1000万人を引き込むことを当面の目標としていた。Opera 12のユーザーは高速で軽量、そしてかゆいところに手が届く機能を実装したブラウザを求めている。これがVivaldiのターゲットだ。そして、春にバージョン1.0をリリースしたVivaldiは順調な滑り出しを見せた。来年にも事業として黒字化する見通しだ。
「これまでに約100万のユーザーを獲得した。製品版を公開してから7カ月ほどなので、滑り出しとしては順調と考えている。このままいくと、2017年中に事業として黒字化できる300万人から400万人に到達できるのではないかと考えている」と語るのは、 Vivaldi 共同創業者兼COO の冨田龍起氏だ。
Vivaldiのユーザーを国別に見ると、トップの日本に、米国が続いている。3位以降はロシア、ドイツ、ポーランド、ブラジル、インド、フランス、台湾、イギリス、スペインといった順になっている。台湾はVivaldiを紹介したあるブログをきっかけに、一気にユーザーが伸びたそうだ。Vivaldiは知名度が低いが、実力はある。知られるきっかけさえあれば、ユーザーは増えるだろう。
ロシアはインターネットがダイヤル回線で接続されていた頃、Operaの最大ユーザー数を誇った国だ。そのため、Vivaldiへの移行が起こったのは自然の流れと言える。日本もOperaユーザーが多い国だが、昨年7月にOperaが中国の企業に買収されるというニュースが流れ、Vivaldiへの移行が一気に進んだ。
エコシステムにあらがっても信念を貫くメーラー開発
VivaldiはレンダリングエンジンにChromiumを採用している。「Operaのような資本が望めない今、生かせるものは生かし、こだわるものにはこだわる。その判断の下、レンダリングエンジンはChromiumの実装を取り込むのが最適だと判断した」と、冨田氏は語る。
そのため、Vivaldiでは6週間おきにChromiumのコードをVivaldiにマージする作業を行っているそうだ。開発者でないとわからないことだが、これは相当に苦しい作業だ。6週間おきにマージという苦行のような儀式がやってくる。担当しているエンジニアの心労は計りしれない。さらに、ユーザーからは要望が上がってくる。この6週間という開発のサイクルにエンジニアの投入数を増やそうと考えるのは当然のことだ。
しかし、Vivaldiのこだわりはここで「ノー」と答える。「メーラーの開発に取りかかっているエンジニアには、メーラーの開発一本で突き進んでもらうことを決めている」と冨田氏。
かつてブラウザにはメーラーが付属していたが、現在のシンプル化されたUI/UXの流れの中でメーラーはブラウザから離れていった。しかし、Vivaldiは「満足のいくメーラが存在しない。だから開発するのだと取り組んでいる」という。Vivaldiが総力を挙げて開発しているこのメーラーは2017年に登場する予定だ。
譲れない最速の名称と「歴史を作ろう」プロジェクト
さらに、Vivaldiは最速は譲れないという考えの下、あらゆる部分の高速化にも取り組んでいる。「まだまだ高速化できる余地がある」(冨田氏)とのことで、今後リリースされるバージョンではさらに軽快な動作が期待できる。ブラウザの動作の高速性はそのままユーザーの快適性につながる。
デスクトップ向けの主要オペレーティングシステムのシェアは、Windowsが9割近く確保、残りをMacが6~7%、Linuxが2~3%と分け合っている状況だ。この割合とVivaldiのユーザーのオペレーティングシステムの割合を比べると、MacよりもLinuxのVivaldiユーザーが多いという。開発者やアドバンスドユーザーが好んで利用するのだろう。
今後導入される新機能だが、次のバージョンには履歴閲覧に関する新たなUI/UXが導入される予定だ。閲覧履歴は大量のデータを検索する操作に相当するが、現在の主要ブラウザのUI/UXはお世辞にも使いやすいとは言えないという。人によっては閲覧履歴を頻繁に利用している。Vivaldiはこの部分に新たな概念を導入する予定だ。プロジェクト名は履歴(History)をもじって「歴史を作ろう」とされている。Vivaldi 1.7でこの機能が利用できるようになると思われ、期待したい。