アップルのティム・クックCEOは、電話でドナルド・トランプ次期米国大統領と会談をしたと伝えられた。お互いの意見交換は穏やかなものだったようで、トランプ氏にインタビューしたNew York Timesは、トランプ氏の言葉を紹介している。これによると「(トランプ氏にとっての)成果の一つは、アップルがアメリカに大工場を建設し、そこであなた方の製品を作ることだ」と述べた。そのかわり、企業に対する減税措置を行うとしている。クック氏はこれに対して理解を示した、とも報じられた。

アップルへの言及

大統領選挙を通じてトランプ氏のアップルに関する発言はいくつかある。

2016年1月にはバージニア州リバティー大学における講演で、「アップルは米国でコンピュータや製品を作るだろう」と発言している。これは、アップルが現在、ほぼ全ての製品を中国など、米国外の国で製造していることへの批判を意味している。

また2月にアップルがFBIの捜査に協力しなかったことで、トランプ氏のTwitter投稿で過激に非難された。トランプ氏は「アップル製品をボイコットしよう」と呼びかけたのだ。

もちろん、こうした発言は、今となっては、選挙期間中の戦術だったのではないか、と思わされることもある。ただ、トランプ氏を支持した人々の心をつかんだのは、米国発のグローバル企業であるアップルが、税金や雇用の面で、米国に対しての責任を果たさず、貢献もしていないのではないか、という疑問に火をつけたことにある。

アップルを初めとしたグローバル企業は、事業全体における税率をいかに低く抑えるか、といった様々な策を練っている。これに対して批判が集まっている点は言うまでもない。租税回避、税金逃れ、と自国民や当局からの指摘が絶えない。

グローバル企業と国家間の争い

グーグルやフェイスブックなどは、欧州の本社としてアイルランドに設置し、米国外のビジネスをここに集中させることによって、税率を低く抑えてきた。シリコンバレーの企業は10%前半の税率を実現するところもあるほどだ。

アップルが用いるこの手法に対して、アイルランドが加盟しているEUからは、税優遇が違法だとして最大1.5兆円の追徴課税を命じたが、アイルランド・アップル双方から不服の申し立てが行われている

また、日本の国税当局は、アップル子会社の日本法人であるアイチューンズ株式会社が、アイルランドのアップル子会社に移っていた利益の一部を、日本での課税が必要なソフトウェア使用料と判断したことから、120億円の追徴課税を指摘し、アップルジャパンはこれに応じたという。

もう1つの批判の的は、米国外に資金が滞留していることだ。2016年の段階で、およそ23兆円もの資金が米国外にあるという。米国外から資金を移す際、現在は35%の税率がかかることになっているが、トランプ氏はこれを10%に下げるとしている。これによる米国への資金還流は、ドル高、米国内への投資の活性化に繋がる、という算段だ。

ただし、もし米国への資金還流の道筋を立てたとしても、アップルがすべての資金を米国に戻すとは考えにくい。それは後述のiPhoneを米国で作れない理由と同じで、米国内での資材の購買や研究開発投資、マーケティング等の投資が必要だからだ。

すでにアップルは世界中の拠点での採用と研究開発、生産などを行っており、税率だけで物事が決まらないのが現状だと言える。