産業技術総合研究所(産総研)は10月14日、石炭中のメトキシ芳香族化合物から直接メタンを生成するメタン生成菌を深部地下環境から発見したと発表した。
同成果は、産総研 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ 眞弓大介研究員、持丸華子主任研究員、吉岡秀佳上級主任研究員、坂田将研究グループ長、燃料資源地質研究グループ 鈴木祐一郎主任研究員、生命工学領域 鎌形洋一 研究戦略部長、生物プロセス研究部門 生物資源情報基盤研究グループ 玉木秀幸主任研究員、山本京祐元産総研特別研究員らの研究グループによるもので、10月14日付の米国科学誌「Science」に掲載された。
石炭層に内在する「コールベッドメタン」は、非在来型天然ガス資源として近年開発が進められている。コールベッドメタンの成因のひとつは、石炭層に生息する微生物の活動によるものと考えられているが、その詳しいメタン生成メカニズムは明らかになっていなかった。
今回、同研究グループは、石炭の構成成分であるメトキシ芳香族化合物からメタンを生成できるメタン生成菌を探索するため、深部地下から獲得したメタン生成菌11種を各種メトキシ芳香族化合物とともに培養。この結果、「Methermicoccus shengliensis AmaM株(AmaM株)」とその近縁株「Methermicoccus shengliensis ZC-1株(ZC-1株)」が、30種類以上のメトキシ芳香族化合物からメタンを生成できることを発見した。
既知のメタン生成菌が利用できる基質は、水素と二酸化炭素、酢酸、メタノールなどのメチル化合物といった単純な化合物に限られており、メトキシ芳香族化合物のような比較的炭素数の多い化合物から直接メタンを生成できるメタン生成菌の発見は今回が初めてだという。
また、従来のメタン生成経路も基質の種類に対応して、二酸化炭素還元経路、酢酸分解経路、メチル化合物分解経路の3種に限られていたが、AmaM株やZC-1株はこれらとは異なるメタン生成経路を介してメトキシ芳香族化合物からメタンを生成することがわかった。この新規メタン生成経路の詳細については明らかになっていないが、二酸化炭素還元経路と酢酸分解経路が混合し、並列して進行する第4のメタン生成経路の可能性があるという。
さらに、各種石炭を含む石炭培地でAmaM株を培養した結果、AmaM株は褐炭や亜瀝青炭、瀝青炭を含む培地でメタンを生成した。これらの培地からは数種類のメトキシ芳香族化合物が実際に検出され、特に、石炭化度が低くメトキシ芳香族化合物が比較的多く検出された褐炭においてメタン生成が顕著であったことから、AmaM株のようなメタン生成菌が石炭中のメトキシ芳香族化合物を直接メタンに変換することで、微生物起源のコールベッドメタンの形成に寄与している可能性が示されたといえる。
同研究グループは今後、メトキシ芳香族化合物からメタンを生成する代謝経路の詳細を明らかにするとともに、メトキシ芳香族化合物を利用するメタン生成菌の地下圏における分布と、天然ガス資源の形成における実質的なポテンシャル評価を行う予定であるとしている。