ヤフーは今年6月、東京ガーデンテラス紀尾井町への本社移転に合わせて、従業員の個性や才能が生かせる働きやすいオフィスを目指し、さまざまな施策を行うことを発表した。
2拠点に分散していた本社オフィスを紀尾井町に集約、約5700人の従業員が同一のオフィスで働くようになる予定で、5月から順次移転が行われているという。
「ミッドタウンにオフィスを構えた時とオフィスに対する考え方が変わってきているとともに、オフィスが手狭になりました。また、2014年には六本木一丁目にビルを借り、オフィスが分散しました。ビル間でシャトルバスを走らせたものの、コミュニケーションがとりづらい面もありました」と語るのは、ヤフー コーポレート統括本部 PD戦略本部 オフィス最適化推進部長の工藤真一氏だ。
効率やコストも考えた上で、この人数が一堂に集まることができる場所として、「グランドプリンスホテル赤坂」の跡地に開発された「東京ガーデンテラス 紀尾井町」のオフィス棟が選択された。
移転プロジェクト自体は2014年からスタート。今後の数年ではなく、少し未来を見据えた働き方改革を行いたいという意向の下でコンセプトづくりが行われ、そのコンセプトに基づいたオフィスデザインが実施された。
6月に発表されたオフィスデザインは、従業員の机を不規則に配置した上でのフリーアドレス制の導入など、見た目にも興味深いものだった。
会社のあらゆる情報が集まる場を実現するジグザグの机配置
一般的にオフィスの机は島型のレイアウトで設置されることが多い。開発部門などでは集中力向上のためにパーティションで机を囲うようなこともあるが、基本的には壁に対して垂直・平行を保ったレイアウトだ。しかしヤフーの新オフィスでは、島にはなっているものの、島が斜めに配置されることになる。
「以前は一般的な対向島型でしたが、コミュニケーションの活性化を狙ってさまざまなレイアウトを検討しました。ミッドタウンの半フロア分、200人が使う規模で、ジグザグ配置のパイロットオフィスを構築してみたところ、歩行量とコミュニケーション量が2倍になる効果を確認できたので採用しました。対向島型のほうがもちろん収容効率はよいのですが、あえて回り道する配置のほうが交差点が増えるとともに、偶然のコミュニケーションが増えます。最もコミュニケーションがとれる配置にしました」と工藤氏は語る。
写真を見るとわかるのだが、対向島型の場合に存在する、オフィスの端から端へと真っすぐに移動できる通路がない。歩く人はどうしても方々に突き当たり、回り道をしながら移動することになる仕組みだ。
さらに、このレイアウトでフリーアドレス制も導入。社員が自由に好きな座席を選択でき、必要な時は部署を超えたチームで集まって仕事をすることもできる仕組みだ。集中して作業ができる席も用意されているが、オープン席で作業をしていれば自分は黙って仕事をしていても周囲の会話などからいろいろな部署や人の動向が見えてくるという。
「エンジニアの多い部署で実験に取り組んだのですが、当初はエンジニアから効率が落ちるといった意見がありました。時間の経過とともに、エンジニア自身による創意工夫や慣れが出てきたようです。また、袖机のないフリーアドレスでは資料などが扱いづらいという意見もありました。こちらについては、希望者に手提げバッグを提供し、ロッカーから出したものを常に持ち歩けるようにすることで対応しました。今回の移転では効率を高めるよりも、コミュニケーションを増やすことを重視しています」と工藤氏は語った。
ヤフーでは以前からペーパーレス化を進めてきたこともあり、事務書類などは少なく、スタート当初こそ不満の声が多かったものの徐々に慣れた従業員の間では持ち歩く私物も減るなど、問題は解決傾向にあるという。
さらに、登録すれば社外の人間でも利用できるコワーキングスペースも設置。これにより、社内だけでなく社外からの情報も自然に集めようという狙いだ。得意分野が違う人同士の会話から生まれる新たなアイデア、イノベーションを狙った、社内外のコラボレーションを活性化策というわけだ。
キッチンやスタジオが設けられているほか、カフェも併設されており、打ち合わせやイベントなどで多目的に利用することが可能だ。
健康で働きやすい環境を提供
新オフィスに新たに設置されるものに、仮眠スペースがある。これはフロアごとに設けられた4畳半程度のスペースと、特定フロアに設置される個室スペースに分かれており、どちらも就業時間中に仮眠をとることが可能だ。
「新オフィス20フロア中、すでに2フロアが先行移転しているのですが、各フロアにある4畳半の畳のスペースは活用されています。休憩に使っても、仮眠してもいい場所です。9月には仮眠専用の個室ができます。こちらは予約制で、もっとしっかり眠れる感覚ですね。どちらも利用時間など、シンプルなルールだけで運用したいと考えています」と工藤氏。眠気を感じながらダラダラと作業するよりも短時間の仮眠をとったほうが効率がよいことは知られているが、それをうまく利用して快適に働いてほしいという意向だ。
そして、旧オフィスにも存在したが強化されるものとして、マッサージ設備と社員食堂がある。マッサージ設備はマッサージ機と専任スタッフによるマッサージサービスがあるが、今回、マッサージ機が各フロアに2台設置され、仮眠スペースと同様に、快適に働ける環境の強化に当たる。これまでの社員食堂「BASE6」は従来116席しかなかったところ、新しいオフィスの社員食堂は800席程度に拡大される。
「社員食堂BASE6では、昼時に大変混雑するため、座席を予約制にしていました。新しい社員食堂では座席も拡大するので、多くの社員が利用できるようになります。メニューも低カロリーの定食など、健康志向のものが増える予定です」と工藤氏は語る。
食事や休息に配慮することで従業員が健康になり、個のパフォーマンスを発揮できる状態にしたいというのが狙いだ。イノベーションの源泉は従業員一人ひとりであるという観点から、働きやすい風土を整えているという。