京都大学(京大)は9月9日、合成RNAを用いることでiPS細胞の内部状態を識別し、生きたままのiPS細胞を分離・除去できる技術を開発したと発表した。

同成果は、京都大学 iPS細胞研究所(CiRA) 未来生命科学開拓部門 カラム・パー研究員、片山翔太 元CiRA大学院生、齊藤博英教授らの研究グループによるもので、9月9日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

iPS細胞を含む多能性幹細胞は、体のほぼあらゆる細胞に分化することができ、その特性を利用して、再生医療や創薬研究が盛んに行われている。しかし、多能性幹細胞がほかの細胞へ分化する効率にはばらつきがあるため、分化細胞集団のなかにiPS細胞が残ってしまっていたり、完全に分化しきれていない細胞が混ざってしまったりすることがある。

従来、この残存iPS細胞や部分的に分化したiPS細胞を識別・除去するために、iPS細胞の表面上にあるタンパク質に対する抗体が利用されているが、部分的に分化したiPS細胞を見分ける感度や、フローサイトメトリーで細胞を分離する際に、細胞を物理的に傷つけてしまうといった課題があった。

今回、同研究グループは、試験管で合成したメッセンジャーRNA(mRNA)をiPS細胞に導入することにより、iPS細胞に特異的に発現するmiRNAの活性を検知することでiPS細胞を精密に見分け、また、部分的に分化したiPS細胞を識別・除去できる方法を開発した。

具体的には、多能性の制御に関与していることが知られるmiRNA「miRNA-302」に着目し、細胞内のmiRNA-302の活性に応じて異なる反応を示すmRNAを合成した。同mRNAをiPS細胞内に導入すると、細胞内のmiRNA-302に応答して蛍光タンパク質の発現が抑制され蛍光は発しないが、miRNA-302の活性が低いほかの細胞では、蛍光タンパク質が発現し、蛍光を発する。つまり、蛍光の有無により、iPS細胞とそれ以外の細胞を識別・分離することができる。

さらに、同研究グループは、蛍光タンパクをコードする遺伝子の代わりに、ピューロマイシン(薬剤)耐性遺伝子の発現をmiR-302で制御することで、iPS細胞でのみ薬剤耐性遺伝子の発現が抑えられるしくみを構築。薬剤存在下ではiPS細胞が死滅するのに対し、iPS細胞以外の細胞では、薬剤耐性遺伝子が発現し、薬剤存在下でも生存することができる。

なお、iPS細胞から分化したドパミン神経細胞とiPS細胞が混在した細胞集団において、同miR-302スイッチを導入したところ、薬剤存在下で、iPS細胞を示すTRA-1-60陽性細胞が死滅し、有意に減少していることが観察されており、フローサイトメトリーを用いずとも、同miR-302スイッチを用いることでiPS細胞を除去できる可能性が示されている。

同研究グループは同手法について、高価な機器や試薬を必要とせず、大量の細胞調整にも適応できる可能性があるとしており、今後、臨床への応用に加え、生細胞の分化や初期化のさらなる理解をめざした基礎研究にも貢献することが期待されると説明している。

miRNAスイッチを用いたiPS細胞の自動かつ選択的な除去。ピューロマイシン耐性遺伝子を組み込んだmiR-302スイッチを作用させることで、EGFPを発現する神経細胞(緑)が選別され、iPS細胞(TRA-1-60 陽性細胞)は除去される