米国の宇宙開発企業ブルー・オリジンは6月19日(日本時間同じ)、「ニュー・シェパード」ロケットの4回目の打ち上げと着陸に成功した。ニュー・シェパードはこれまでに、同じ機体が昨年11月と今年1月、4月にも飛行しており、3回目の再使用による4回目の飛行成功となった。

またこの打ち上げでは、ロケットの先端に搭載された無人の「クルー・カプセル」のパラシュートを一部展開させない状態での着陸試験も実施し、将来の有人飛行の開始に向けて貴重なデータを取得することに成功した。

ニュー・シェパードの打ち上げ (C) Blue Origin

打ち上げは日本時間6月19日23時36分(米中部夏時間6月19日9時36分)、西テキサスにある同社の試験施設で実施された。ロケットは順調に上昇し、離昇から約2分18秒後にエンジンを止め、先端のクルー・カプセルを分離した。

両機はそのまま慣性で高度約101kmにまで到達。ロケットはやがて落下を始め、安定翼やエア・ブレーキを展開しつつ、安定して降下した。そして高度約1kmでロケット・エンジンに再点火し、23時44分に発射台の近くに設けられた着陸場に着陸した。

一方のクルー・カプセルも落下を始め、通常であれば3基のパラシュートを開くところ、今回は失敗を想定し、1基を故意に展開させず2基のみを展開した。それでも機体は安定して降下し、ロケット着陸の約1分後の23時45分に、着陸に成功した。

ニュー・シェパードが着陸する瞬間 (C) Blue Origin

クルー・カプセルは3基のパラシュートのうち1基を故意に展開させない状態で着陸した (C) Blue Origin

ニュー・シェパード

ブルー・オリジンは、ネット通販大手のAmazon.comを設立したことで知られるジェフ・ベゾス氏によって、2000年9月に立ち上げられた宇宙開発企業。同社は、旅客機のように何度も飛行ができる再使用ロケットの研究開発を行っており、現在は実用化に向けた試験機の打ち上げを続けている。

ニュー・シェパードは単段式のロケットで、垂直に打ち上げ、高度100kmの宇宙空間まで上昇した後、そのまま垂直に着陸し、整備と推進剤の補給を行った後に再び打ち上げることができる能力をもつ。ただし人工衛星を打ち上げることを目的としていない小型のロケットであり、単に垂直に上昇し、そのまま着陸することしかできない。

ニュー・シェパードの初飛行は2015年4月に行われ、高度93kmまで到達したものの、ロケットの着陸に失敗し、機体は失われた。しかし、同年11月23日に行われた2号機による飛行では、高度100.5kmまで到達した後、地上に帰還することに成功。そして今年1月と4月には、その打ち上げに使ったものと同じ機体を再び打ち上げ、宇宙空間まで達した後、垂直に着陸することに成功し、今回で3回目の再使用、4回目の飛行となった。この4回で使われた機体は基本的には同一だが、着陸の成功率を上げるための改良などが加えられている。

垂直離着陸式で、高度100kmの宇宙空間まで飛行した機体を再使用できるロケットは、現在のところニュー・シェパードしかなく、ロケットの再使用による4回目の飛行は、世界最多にして唯一無二の記録である。

また、同社のロケット打ち上げは毎回、秘密裏に行われることで知られているが、今回は初めてインターネットを通じたWeb中継が実施された。

ニュー・シェパードの飛行計画 (C) Blue Origin

着陸成功後、格納庫に戻るニュー・シェパード。トラックや人の大きさと比べると、比較的小さなロケットであることがわかる (C) Blue Origin

クルー・カプセルは着陸失敗を模擬

ニュー・シェパードは人工衛星を打ち上げることはできないが、ロケットの先端に「クルー・カプセル」と呼ばれる、最大6人の乗客や実験装置など乗せられるカプセルを搭載することができ、約4分間の宇宙観光や、微小重力環境を利用した実験などを行うことができるように設計されている。

これまでの打ち上げで人が搭乗したことはないが、前回の打ち上げから実験装置の搭載が始まり、今回の飛行では、米国のパデュー大学とルイジアナ州立大学、ドイツのブラウンシュヴァイク工科大学が開発した3基の実験装置が搭載され、カプセル内の微小重力環境を利用した実験が行われた。

また今回の試験飛行では、通常であれば3基のパラシュートを開いて着陸するところ、失敗を想定し、そのうち1基を故意に展開させずに2基のみで着陸する試験が実施された。

この場合でも、クルー・カプセルは下部に装備された逆噴射ロケットと、衝撃を吸収できる機体構造のおかげで、機体は多少損傷するものの、乗客は無事に帰還することができるように造られており、今回はそうした機能が設計どおり機能するかどうかが試験された。

結果は今のところ明らかになっていないが、着陸までの流れはスムーズに進み、着陸後もカプセルは原型を保っており、試験は成功したものとみられる。

クルー・カプセル (C) Blue Origin

パラシュートが展開しない失敗は十分に起こりうる。写真は1971年の「アポロ15」の帰還の様子で、3基のパラシュートのうち1基が開いていないことがわかる。アポロの場合、帰還は2基のパラシュートのみで十分可能だったため、大事には至らなかった (C) NASA

今後さらなる試験飛行、衛星打ち上げ用の大型ロケットの開発も

ブルー・オリジンでは、今後もニュー・シェパードの試験飛行を繰り返し、2年以内にも同ロケットを使った宇宙観光や宇宙実験をビジネスとして展開したいとしている。先月には、同社の工場で複数のニュー・シェパードの建造が進んでいることが明らかにされている。

また、人工衛星を打ち上げられる大型の再使用ロケットの開発も進んでおり、こちらは2019年ごろの初打ち上げを目指すという。

ロケットの再使用化をめぐっては、ブルー・オリジンと同じ米国の宇宙企業であるスペースXも開発や試験を続けており、両社の間で再使用ロケットの開発競争が激化しつつある。

ブルー・オリジンが開発中の人工衛星を打ち上げられる大型の再使用ロケット。完成すればスペースXの「ファルコン9」ロケットなどの対抗機種になることが予想される (C) Blue Origin

【参考】

・Flight Four - One Chute Out - YouTube
 https://www.youtube.com/watch?v=xYYTuZCjZcE
・Replay of Flight 4 Live Webcast - YouTube
 https://www.youtube.com/watch?v=EI-tGVFg7PU
・Blue Origin | Our Approach to Technology
 https://www.blueorigin.com/technology
・Blue Origin flies reusable suborbital rocket for fourth time - Spaceflight Now
 http://spaceflightnow.com/2016/06/19/new-shepard-flight-4/
・Blue Origin conducts fourth consecutive test flight of New Shepard | NASASpaceFlight.com
 https://www.nasaspaceflight.com/2016/06/blue-origin-fourth-consecutive-test-new-shepard/