人工知能(AI:Artificial Intelligence)技術の開発や、AI技術を活用したソリューション展開を強化すると先ごろ発表したNEC。今回、NEC 情報・ナレッジ研究所長の山田昭雄氏とクラウドプラットフォーム事業部シニアエキスパートの中村暢達氏に同社のAI事業戦略について話を聞いた。
予測した結果を意思決定に結びつける一歩先行くAI技術
AI技術について、NECでは「学習」「認識・理解」「予測・推論」「計画・最適化」といった人間の知的活動をコンピュータで実現するものと定義する。同社のAI研究への取り組みの歴史は長く、1960年代から関連技術の開発を進めている。音声認識、画像・映像認識、言語・意味理解、機械学習、予測・予兆検知、最適計画・制御など、主なAI関連技術に関して、世界初もしくは世界トップレベルの技術を有していると言ってよい。
NEC 情報・ナレッジ研究所長、山田昭男氏は言う。「ディープラーニングによる認識に関しては、長年にわたって強みを持っていると自負しています。ニューラルネットワークへの取り組みは1980年代からであり、われわれとしては今更という感じもあるのですが、機械学習はわれわれの事業を支える基本的なテクノロジーとなっています。認識や分析でユニークなテクノロジーを多数有していることから、これらを用いて数々の先進的な試みを推進しているところです」
そんな同社が今年11月に発表したのが、予測に基づいた判断や計画をソフトウェアが最適に行うAI技術である「予測型意思決定最適化技術」だ。
同技術を適用した水需要予測に基づく配水計画では、浄水・配水電力を20%削減する配水計画を生成できたという。また、どのぐらいの価格で販売したら、どのぐらいの数量が売れるのかといったように、市場のニーズについて、消費者の行動の結果やそれに伴うニーズの変化までを考慮した上で、最適な売値をサジェスチョンすることも可能だという。
「予測は分析のカギとなるテクノロジーで、予測型意思決定最適化技術も予測と密接に結びついています。予測は確実ではありませんので、何らかの形で相違する事象の発生も見通したうえで、現状で取りうるベストを示すというのが予測型意思決定最適化技術なのです。予測した結果が好ましければ実現し、好ましくなければそれを防ぐといったように、意思決定や行動に結びつけるというのが肝になります」(山田氏)
究極のリアルタイム性を実現するAI技術で治安の向上を
もう1つ、今年11月に発表した新たなAI関連技術として「時空間データ横断プロファイリング」が挙げられる。この技術は、複数の場所で撮影された長時間の映像データから、特定のパターン(時間・場所・動作)で出現する人物を高速に分類・検索するというもの。NECが得意とする顔認証技術などと組み合わせることで、AI技術としての利用が可能となる。
時空間データ横断プロファイリングは、大量の映像データから顔の「類似度」をもとにグループ化し、特定の出現パターンにあった対象の発見が可能なアルゴリズム(手法)だ。
この技術により、顔が類似しており同一人物と見なせる出現パターンを分類し、出現時間・場所・回数などでの検索が可能になる。例えば、カメラ映像中の「同じ場所で頻繁に出現する人物」や「複数の場所に現れた人物」を発見し、防犯や犯罪捜査など、従来人手ではできなかった新たな知見や気づきを見いだす高度な解析が可能となるのである。
海外の公的機関の協力を得て、街角に設置されたカメラ映像中ののべ100万件の顔データを時空間データ横断プロファイリングにより解析したところ、同じ場所に長時間・頻繁に現れる人物の検索・抽出をたった10秒で行ったという。
山田氏は言う。「これまで時間がかかっていた処理をリアルタイムに実現するというのが時空間データ横断プロファイリングのポイントになります。ITでビッグデータ・ソリューションに、"リアルタイム性""リモート性""ダイナミック性"をというのが当社のメッセージであり、それを体現する技術の1つです」
NECではSaferCities事業をグローバルに展開しているが、時空間データ横断プロファイリングは、とりわけ治安の良い街づくりに大きな役割を果たす技術としても期待されている。同社はこの技術を2016年度中に実用化し、今後、道に迷った観光客へのおもてなしや、振る舞い・表情から心情を理解するマーケティングなどへも展開するほか、音声やテキストなどさまざまなデータにも適用していく予定である。
将来は脳型コンピュータの開発も
このように、社会にはさまざまな課題が存在しているが、NECはヒトと人工知能が協調することで、複雑化が進む社会課題の解決を目指している。AI技術の進化で効率を高めるだけでは、課題の解決は難しいという。人工知能を活用することで、より確実で、ヒトが納得できる解をより早く導き出そうというわけだ。
さらに、将来を見据えたAIへの取り組みとして、NECは脳型コンピュータの開発にも視野に入れている。脳型コンピュータの開発に向けて、学術機関と連携した取り組みに積極的な姿勢を示しているのだ。
「超低消費電力のコンピュータを実現する脳型コンピュータは、新しいAI技術にとって重要な意味を持ちます。なぜならば、社会に存在する小さなモノにまで知能を持たせるためには、低消費電力であることが欠かせないからです。脳の仕組みなどについては私たちも知識やノウハウが十分ではありませんので、学術機関連携しながらオープンイノベーションで推進していきます」(山田氏)
そして最後、同社のAI技術への市場からの期待について、クラウドプラットフォーム事業部シニアエキスパートの中村暢達氏は次のように語った。
「官庁やメーカーなどを中心に数多くの問い合わせを受けており、まさに『AIブーム』が起きていると実感しています。とりわけ大きいのが画像分析のニーズで、例えばメーカーの場合、生産現場での検品を機械によって自動化することなどに積極的ですね。また、勘と経験に頼らない採用基準で適正な人材を採用するといったような使い方への要望も多いです。ビジネスそして社会価値創造にいかにAIを取り入れていくかという発想で、今後AI事業への一層の注力を図っていきます」