岡山大学は11月19日、低温の水は均質ではなく、多様で豊かな内部構造を持っていることを明らかにしたと発表した。
同成果は同大学大学院自然科学研究科(理)理論化学研究室の松本正和 准教授、矢ヶ崎琢磨 特任助教、田中秀樹 教授の研究チームによるもので、11月10日に米国物理学会の国際科学雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。
水を4℃以下に冷やすと膨張しはじめることが知られている。低温での液体の膨張は、水以外の物質には見られない特異な性質あり、比熱が大きい、固体の密度が液体より低いなど、水の特異な性質と深く関わっているとされる。
水を0℃以下に過冷却した場合にも膨張は続き、実際、水を急冷してできるアモルファス氷(非晶質の氷)の密度は、結晶の氷と常温の水の中間になる。このことから、過冷却された水やアモルファス氷は結晶氷に似た秩序構造を持つと考えられていたが、流動性のある過冷却水が結晶氷と同じ構造であるとは考えにくく、水が過冷却されるにつれてどのような構造になっていくのかは謎とされてきた。
今回、同研究グループは計算機シミュレーションにより、過冷却された水の微細構造を解明。水は液体状態では、一般に分子の配置が結晶のような周期性をもたず、どこも均質に乱れていると考えられてたが、同研究により水を過冷却すると、「拡張多胞体」と呼ばれる、1nm程度の秩序あるクラスタが徐々に増え、不均一な構造となることがわかった。さらに、計算機シミュレーションに加えてグラフマッチングという手法を用いることで、液体のなかの乱れた構造を網羅的に分類して、拡張多胞体が過冷却水やアモルファス氷で最も主要な秩序構造であることを明らかにした。今回発見した拡張多胞体構造には、右手型と左手型の、互いに鏡映対称で重ねあわせられない2種類の構造(キラル構造)があり、過冷却水やアモルファス氷では、この2つの微細構造が混在していると考えられるという。
同研究グループは、水を冷やすと徐々に顕著になる、さまざまな特異な性質が、この構造に由来すると考えると、従来よりも明確で一貫した説明を与えられると見込んでいるほか、同研究で用いた網羅的な構造分類手法により、細胞内などの狭い空間にある水や、電解質水溶液など、通常の水とは異なる性質の水の構造の違いを見つけ出し、その役割を詳しく解析できるようになるとしている。