クレディ・スイスが主催するクレディ・スイス・サロンと同時に東京で開催された「プライベート・イノベーション・サークル」。これは、革新的なテクノロジーを持つ世界110以上の企業から選ばれた8社が自社の魅力を来場者にアピールするイベントで、今回が2度目の開催だ。日本からはPepperを開発したソフトバンクロボティクスが選出された。
クレディ・スイス・サロンが日本で開催されたのは初めてで、今回が15回目の開催。世界有数の銀行であるクレディ・スイスが、同社の顧客や有力な意思決定者を招き、社会・経済・政治の重要テーマについて、世界のオピニオン・リーダーやクレディ・スイスの経営陣と意見交換を行っている。
プライベート・イノベーション・サークルでは、事業アイデアの革新力と「コンセプト実証」をすでに通過していること、収益創出の可能性や経営実績などを基準に110社以上から8社を選出している。前回のロンドンに続き、日本で開催された影響もあるかもしれないが、こうした企業の中で選ばれたソフトバンクロボティクスは、世界的に見ても注目の存在ということだろう。
そのほか、サイバーセキュリティ分野で、ヒトの免疫機能を模したセキュリティ防御サービスを提供し、この6月より日本オフィスも設立した英DARKTRACE、ライブ攻撃インテリジェンスで、他のシステムで防ぐことのできない脅威阻止を支援する米Norse、衛星による地上の動画撮影を行い、商用ベースで高品位なリアルタイムの動画配信を目指す米SATELLOGIC、天候やエネルギー関連のビッグデータを多角的に処理・分析し、先物価格を正確に予測するシステム構築を目指すイスラエルのMeteo-Logicの代表者が登壇した。
Pepperの法人向け販売は秋に
ある意味で日本代表となったソフトバンクロボティクスの事業推進本部長である吉田 健一氏。Pepperについて、これまでのデジタルデバイスとは異なる魅力についてこのように話す。
「人はPepperを人として認識できる。だから、ほかのスマートデバイスとの差別化につながる」(吉田氏)
胸にこそディスプレイが備え付けられているPepperだが、基本的には頭部や手の動き、そして音声認識と発声によってコミュニケーションを取っている。ディスプレイの中に閉じ込められた二次元的な情報のやりとりが、三次元でよりリアルに対話という最も自然なコミュニケーションでつながる。そこが「人として認識できる」という表現に現れているのだろう。
ほかにも、開発者が柔軟にアプリケーション開発を行える点や、クラウドを介してデータの蓄積、さらには性能向上につながるアップデートなど、技術的側面でも優れていると説いたうえで、日本では既に一般企業によるPepperの導入が始まっている点をアピール。紹介された事例は、弊誌でも取り上げたネスレで、年内に1000店舗、1000台のPepper導入を進めている。
実運用の概況では、Pepper1台当たり、1日に100人の応対を行っており、売上も導入前と比較して20%程度の向上が見られたという。今まではセールス担当者が存在しなかった場所に、人を配することなくPepperを据え置いたことで「人を雇うより少ないコストで売上向上に貢献した」(吉田氏)のだが、「コストが重要なわけではない」とも話す。
「こうした店頭では、ビッグデータ収集が重要。来店者の性別や年齢、感情、顔を読み取り、統計分析が可能となる。ビッグデータとして分析ができるのであれば、はじき出された数値からセールスパフォーマンスの改善にも容易につなげられる。
例えば、Pepper AとPepper Bがいたとして、別々の顧客対応スピーチを試してみる。人間ではそうしたABテストはなかなか難しいかもしれないが、Pepperならそれが実現できる。小売業界にとって、革新的な取り組みであり、Eコマースにも対抗できる」(吉田氏)
その後のトークセッションで、「日本には素晴らしいテクノロジー、イノベーションが生まれてきたが、必ずしも世界に広がることはなかった。ソフトバンクは世界を狙うのか?」と尋ねられた吉田氏。これに対して以下の様な回答を行っていた。
「GoogleやAmazonを見ればわかるように、プラットフォームビジネスが今の戦場だが、日本ではソフトウェアやクラウドにおけるパワーが足りない。
その一方で、人工知能やマシンラーニング(機械学習)、クラウドに私たちはフォーカスを合わせている。ソフトバンクは決してハードウェアの企業ではなく、Foxconnなどとパートナーシップを組んでPepperに取り組んでいる。クラウドに注力することで、ほかのジャイアントと競合し、グローバルな競争を目指していく。
Pepperは、実際にかかっている製造コストよりも価格設定が安い。パーソナルなロボット市場を確保して、利益よりもシェアを取り、そこから追加的な売上を目指す。それはアプリストアの拡大を図り、アプリから収益を得るという考えだ。
一度Pepperを使い始めたら、容易に使うことはやめられないと思う。それは、アプリの購入やそれに伴うデータの蓄積から、データを消去しづらいという心理が働くからだ。こうした考えから、将来的な売上、継続的な収入をもって、収益化を進める。だから最初は市場シェアを取りたい。
一般消費者向けは近いうちに、法人向けは秋以降に正式ロンチしたいと考えている。グローバル展開もいずれという形で考えているので、興味があればぜひ相談してください(笑)」
Pepperは3月にみずほ銀行が導入を発表。IBM Watsonとの連携なども予定されている。