これまでは日本のソフトバンクが海外に投資をしてということだったが、"第2のソフトバンク"では、世界のソフトバンクが日本にも大きく事業を提供しているという立場になりたい――。2014年度決算会見で、ソフトバンクの創業者で代表取締役社長でCEOの孫正義が冒頭に語った言葉だ。
孫氏は直後に、Googleで最高事業責任者を務め、昨年7月にバイスチェアマンに就任したニケシュ・アローラ氏を"後継者"として指名した。具体的には、代表取締役副社長となり、現在、代表取締役副社長で孫正義氏の片腕として知られる宮内 謙氏は代表取締役から外れる。
孫氏は、アローラ氏を後継者に指名する前、現在のソフトバンクを取り巻く状況として、経営が安定軌道に乗った通信事業と、これからも拡大を続けるインターネット事業の2つの領域を挙げ「(旧ボーダフォンを買収後の)この10年は、通信のインフラ整備に頭の殆どを向けていた。90数%をインフラに考えてきた。ネットに対しては、2、3%しか考えず、ほとんど趣味のように続けてきた。ただ、第2のソフトバンクとしては、ネットに集中的な投資を行い、本格的に世界のソフトバンク、ネットのソフトバンクになれるよう、もう一度加速していきたい」と語る。
ただ、2、3%しかインターネット事業に対して考えなかった割には、あしもとの子会社群は非常に好調だ。中国のeコマース企業・アリババは、米ウォルマートの米国内取扱高を抜き、純利益で6700億円を稼ぐ。また、この1年で矢継ぎ早に投資を行ったアジア系ベンチャー企業も目まぐるしいスピードで成長している。国内に目を向けても、Yahoo! JAPANが18期連続の増収増益を記録し、「更に成長させる戦略を練っている」(孫氏)ところだという。
こうしたインターネット事業の後押しをするための人材、それが元Googleのニケシュ・アローラ氏というわけだ。孫氏は、日本の会見場に初めて現れたニケシュ・アローラ氏をまるで我が子、兄弟、果ては恋人のように記者やネット中継の視聴者に紹介した。
「彼とは5年前に知り合い、ソフトバンクで9カ月仕事をしている。私より10歳若く、ソフトバンク創業以来、代表取締役社長 兼 CEOとしてやってきたが、ニケシュに代表取締役副社長になってもらいたい。
Googleの経営を取り仕切ってきたニケシュは、私以上の人脈を持ち、その知見や交流から、ソフトバンクを世界のソフトバンクにするパートナーを得たと考えた。
私はまだ引退しないし、これまで通り経営を継続する。時期や形については言わないが、ニケシュに何か起こらない限り、将来もっとも重要な後継者としてやってもらいたい。
彼は、世界最大のネット起業を切り盛りしていた経験もあり、私をはるかに上回る才覚を持っている。ディスカッションをする上で、意思決定が深まる経験をしてきたし、それを通して、尊敬に値する人だと見えてきた。楽しくなきゃ仕事はやっていけないが、彼とは楽しくやってこられたと思う。
この9カ月、1カ月のうち1週間はシリコンバレーにいたし、ニケシュは逆に、1週間は日本に来て対話を重ねた。インドや中国へは、一緒に出張もしている。毎日電話でやりとりしないといけないことがあり、夜寝る前に電話するのはニケシュだし、起きたらすぐに電話するのもニケシュだ(笑)」(孫氏)
たった9カ月でどこまで分かり合えるかは、当人たちの感覚だろうが、恋人以上のコミュニケーションを通して"後継者"に指名しても問題ないという感触を得た孫氏。ただ、2015年度の業績予想は非開示で、記者からの質問に対して「迅速な投資意思の決定」ができなくなると、やや口を濁した。大きなM&A案件が控えているのかもしれないが、この日で唯一歯切れが悪かったシーンとも見えた。
ニケシュ・アローラ氏に課せられた使命は、ソフトバンクが"革新的な起業家集団"でい続け、「大企業に成り下がらないこと」(孫氏)。30年サイクルで衰退局面に入ってしまうとされるIT企業の命運を変えられるか |
米携帯電話事業者のSprintも、決して絶好調とはいえない中で、「マルセロ体制になり大きく変わった。(減損損失を計上した)3カ月前と今日の私では、Sprintに対するコメントの表情が違うのではないか」と話すなど、比較的明るい表情が目立った今回の決算。2010年にスタートした、孫氏の後継者を育てるとするソフトバンクアカデミアでまだ見つけられていない後継者候補に足る人材が、喜びの表情に繋がったことには違いないだろう。