感染したウイルスの居場所を蛍光で探せる新しい画像手法ができた。4種類の蛍光タンパク質を発現するインフルエンザウイルスの作製に、東京大学医科学研究所の河岡義裕(かわおか よしひろ)教授と福山聡(ふくやま さとし)特任准教授らが成功した。蛍光タンパク質を利用して感染細胞を光らせるため、感染によって起こる炎症など、体内でウイルス感染が広がる様子を画像で分析することが可能になる。ウイルス研究の有力な手法になりそうだ。米ウィスコンシン大学、鹿児島大学との共同研究で、3月25日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
生きた感染細胞を検出するため、インフルエンザウイルスの遺伝子に印となる蛍光遺伝子を挿入する試みがなされてきた。しかし、印となる遺伝子を挿入すると、ウイルスの病原性が低下したり、ウイルスが増殖を繰り返す間に挿入した遺伝子が脱落したりするなど課題が多く、感染実験に使うことは難しかった。このため、研究グループは、病原性を損なわず、蛍光タンパク質を安定的に発現するインフルエンザウイルス株の作製を目指した。
図2. 透明化した肺におけるウイルス感染細胞の局在。マウスにそれぞれ異なるカラフルのウイルスを感染させて肺を摘出し、試薬で肺を透明にした。蛍光タンパク質を発現するウイルス感染細胞の分布を蛍光実体顕微鏡で観察したところ、それぞれの蛍光タンパク質を発現する感染細胞が気管支に沿って広がっていることが確認できた。(提供:東京大学) |
工夫を凝らして遺伝学的方法を駆使した結果、ウイルス本来の病原性を保ちつつ、挿入した蛍光タンパク質の遺伝子の発現をほぼ完全に維持できるウイルス株を樹立でき、「Color-flu(カラフル)」と名付けた。短波長から長波長まで波長の異なる4種類の蛍光タンパク質を使い、さまざまな画像解析に応用できることを実証した。
このカラフルのウイルスに感染したマウスの肺を透明にした後、蛍光実体顕微鏡で観察したところ、4種類のそれぞれの蛍光タンパク質を発現する感染細胞が気管支に沿って広がっていくことを確認できた。インフルエンザウイルス感染細胞とマクロファージの連続撮影にも2光子レーザー顕微鏡で初めて成功し、ウイルス感染で炎症が生じる様子を詳しく捉えた。また、蛍光タンパク質を発現する高病原性鳥インフルエンザウイルスを作製し、肺での感染の広がり方をインフルエンザウイルスとで比べることもできた。
河岡義裕教授らは「このカラフルのウイルスを実験に使えば、ウイルスに対する生体防御や気道炎症、新型ウイルス出現などの仕組みの解明に役立つ。ウイルス学や免疫学などの基礎研究から、ワクチンや薬剤開発まで幅広く利用できるだろう」と期待している。