アンケート調査では導き出せないユーザーの本音
リクルートホールディングス傘下の企業として、技術やソリューションの開拓・実装・展開などITの側面からグループのサービスを支えるリクルートテクノロジーズ。その中でもUXデザイングループは、サイトの画面設計支援、ユーザビリティテスト、ユーザ調査支援などWebマーケティングの機能を担っている部署だ。このUXデザイングループ内のマーケティングリサーチチームが積極的に採用している新たなリサーチ手法「MROC(Marketing Research Online Community)」について、導入背景やメリットなどを見ていきたい。
リクルートテクノロジーズ ITマネジメント統括部 サイトプランニング部 UXデザイングループの坂本千映子氏は「UXデザイングループの役割は、“ユーザーにとっての体験価値をデザインする”ことにあります」と語る。
たとえば、クーポンサービス1つをとっても、ユーザーの属性や利用シーンによって、発生する課題やニーズが異なってくる。こうしたサービスをより良いものへと改善する場合、ターゲットとなるユーザー層の中から一定のニーズの塊を見出し、カスタマージャーニーを可視化・分析してから、各種機能や表示情報などを盛り込んでいく必要があるわけだ。
マーケティングリサーチチームが手掛けているのは、こうしたユーザーを深く理解する取り組みの中でも、リサーチの部分に相当する。今までは先進的な機能を出せばヒットしたり、流行のサービスを模倣することでもある程度のユーザーを獲得できる時代だった。しかし現在は、機能的な価値だけではなくて、心を動かされるサービスがユーザーに選ばれていく、といった考え方が主流である。つまり、ユーザーの本当に求めるモノや心のカラクリを深く理解しなければサービスを流行させることはできないため、リサーチは必要不可欠となっているのだ。
リクルートグループではこれまで、必要に応じてリサーチを社外に依頼していた。リサーチ手法の中心はアンケート調査だったが、アンケートでは決まった設問の中から選択する方式になるため、どうしても設問自体がサービス企画者の仮説の範囲内にとどまってしまいがちになる。これではユーザーの本音を導き出すことには限界があると感じていたという。また、アンケートの企画から実施まで1ヶ月程度かかり、サービス展開スピードに追いつけないという実情もあった。
「リクルートグループでは、新しい価値やユーザーの声から必要とされている機能を見つけてすぐに反映するなど、ここ数年でサービスのPDCAを回すサイクルが加速しています。週次単位でリリースする場合もあるため、リサーチにもスピードとクオリティの両方が求められるようになりました」と、坂本氏は従来のリサーチ業務の課題を語る。
ユーザーの本音を深く探るリサーチがサービスのスタート部分に必要不可欠という考え方は、リクルートグループ全体でも理解が深まってきている。そして2014年10月から組織的に取り組むべく、UXデザイングループ内に「マーケティングリサーチチーム」が発足したのである。
スピードとクオリティを両立する理想的なリサーチ手法「MROC」
マーケティングリサーチチームでは、リクルートグループのサービス展開に最適なリサーチ手法の選択・評価を開始した。深いユーザー理解を迅速かつ低コストで集めるには、オンラインコミュニティで常時意見を聞けるような仕組みが必要になる。そこで注目したのが「MROC(Marketing Research Online Community)」だった。
MROCとは、ある特定のテーマに関心のあるユーザーを集めたオンラインコミュニティを形成し、双方向コミュニケーションで意見を収集する手法だ。スピードの面では、オンライン上にユーザーがいるのでリアルタイムに意見を聞くことができる。またクオリティについても、対話型のメリットを活かした柔軟な対応が可能。数ヶ月間にわたり継続してユーザーと向き合えるため、信頼関係の高まりから本音も聞き出しやすい。さらに同じような立場、話しやすい人同士が自然に集まるので、コミュニティ内で本音が出やすいという利点もある。
従来の調査方法とMROCの差 |
「ユーザーニーズの理解も期間限定ではなく、常時行っていかなければ日々変化するニーズに応えられません。そうした点でMROCは、スピードとクオリティを両立する理想的なリサーチ手法といえます。コストもアンケート調査と同程度なので、企業としても使いやすいですね」と、MROCのメリットを語る坂本氏。
オリジナルカレーで“ゲレ食”の満足度が4倍まで改善
MROCを用いたリサーチは、マーケティングリサーチチームが発足する以前から坂本氏によって開始されていた。まずは、マタニティ・ベビー・キッズ用品の通販サイト「赤すぐ」に初期導入し、その後、iOS/Android向けアプリ「マジ☆部」を用いた全国170以上のゲレンデでリフト券が無料になる19歳限定キャンペーン「雪マジ!19~SNOW MAGIC~」で活用。その後も、無料POSレジアプリ「Airレジ」、求人情報サイト「タウンワーク」、各種新規サービスなどで幅広く利用されている。
たとえば赤すぐでは、219名の母親と一緒に10種類ほどの新製品開発を実施。一部の製品は売上が140%にまで達したという。また「雪マジ!19では300人のユーザーコミュニティを形成し、約6ヶ月間にわたりさまざまな意見を聞いてきました。その中でゲレンデの食事、通称“ゲレ食”は高いわりにあまり美味しくないというイメージがあり、若者が満足できるようなゲレ食を開発できないかという実証実験を行ったんです」と語る坂本氏。
この実証実験には、舞子スノーリゾートとじゃらんリサーチセンターが協力。特に興味度が高かったカレーについて、MROCで味/ボリューム/価格/盛り付けなど様々な観点で調査し、約200を越えるアイディアから厳選して3種類のオリジナルカレーを開発した。実際に一般のスキーヤー・スノーボーダーを含めて試食会を行った結果、食事の満足度は現地アンケートで4倍まで改善したという。
「人の気持ちが入った製品開発は限られたコミュニティだけでなく、一般の方々にも受け入れられることが分かりました」と坂本氏。3種類の中でも圧倒的な支持を得た「ホワイトマジック☆カレー~白い魔法で甘くなっちゃいました~」は、舞子スノーリゾートで昨シーズンのメニューに実際に並んだ。
単なる調査で終わるのではなく、製品やサービスへの反映を前提として取り組む姿勢は、リクルートグループならではの大きな強みだ。また、サービスへの反映を約束した上でのリサーチとなるため、ユーザー側から本音が出やすくなるというメリットもある。
新たな課題解決に向けたソリューション開発にも着手
MROCはユーザーの意見をリアルタイムかつ幅広く集められる反面、そのテキストは膨大な量になる。そこで「マーケティングリサーチチームでは、ユーザーの皆さまから寄せられたすべての意見をチェックしています。しかし今後さらに大規模な活用を目指すには、大切な意見を漏らさず、バイアスをかけずに見られるような状態にするソリューションが必要です」と、新たな課題について語る坂本氏。こうした背景から、リクルートテクノロジーズではビッグデータ活用を含む自動集計のソリューションなど、さらなる活用方法を常に模索しているという。
ユーザーに最良のサービスを提供するため、日々先進的な取り組みを続けているリクルートテクノロジーズ。その中でもMROCによるリサーチは、ユーザーとリクルートグループのサービスをつなぐ架け橋として、今後も重要な役割を担っていくだろう。