都市の水辺に発生する「カビ臭」の原因物質が、食品のカビ臭の「2,4,6-トリクロロアニソール」であることを、東京工科大学(東京都八王子市)応用生物学部の浦瀬太郎教授らが初めて突き止めた。都市の水辺のカビ臭対策を進める手がかりになりそうだ。12月21日、甲府市の山梨大学で開かれる土木学会環境工学研究フォーラムで発表する。
憩いの場として親しまれている都市の水辺は、一見してきれいな水質でも、カビ臭を感じることがある。排水路があるところで発生しやすい。季節変動も少なく、人間の生活が影響しているとみられている。水道水のカビ臭の原因物質はすでに知られているが、都市の水辺のカビ臭の正体はわかっていなかった。
研究グループは、東京・多摩地区の多摩川や玉川上水など17カ所から、それぞれ3~6回、季節ごとに水を採取し、においをヒトの嗅覚で調べた。においの強さは、試料の水を無臭水で希釈して、においを感じる限界で表すと、1倍から300倍の希釈まで幅があった。においの種類はカビ臭、土臭、沼沢臭だった。水道水のカビ臭物質は、都市の水辺のにおいを説明できる濃度にまで達していなかった。
食品のカビ臭物質として問題となる2,4,6-トリクロロアニソールの濃度を調べたところ、その水の持つにおいのかなりの部分を説明できた。100倍以上に希釈しても、カビ臭を感じることのできる試料に限ると、1リットル当たり13ナノグラム(ナノは10億分の1)以上の濃度で、この物質が検出され、都市の水辺のカビ臭の主因とわかった。
2,4,6-トリクロロアニソールの起源は調査中だが、研究グループは「家庭や飲食店、医療現場、工場などで広く消毒・漂白・脱臭のために用いられる塩素系薬剤と有機物が反応すると、カビ臭のもとになる塩素系化合物が生成される。さらに、これが微生物による反応で2,4,6-トリクロロアニソールとなり、広範囲の水の中から検出される」と推測している。
浦瀬太郎教授は「2020年の東京オリンピック開催を控え、都市の魅力を語るうえで、水辺の悪臭対策も必要になるだろう。食品のカビ臭の物質が都市のにおいと関連していることがわかったので、都市の水辺環境の臭気対策を前進させる可能性が出てきた。今後、この水辺のカビ臭の生成プロセスを詳しく解析したい」と話している。