ソフトウェア開発やコラボレーションツール、「JIRA」や「Confluence」などで世界35,000社以上の顧客実績をもつ、アトラシアン。オーストラリアのシドニーに本社を置く同社は、創業者でもあるCEOのMike Cannon-Brookes氏の来日を機に、日本を代表する各界のキーマン3名と対談を行った。
第一回目では、元ソニーCEO、現クオンタムリープの代表取締役を務める出井伸之氏と、真のイノベーションとはどのようなことかについて大いに語っていただき、第二回目では、ドワンゴの取締役ほか、数多くの企業の社外取締役を務める夏野剛氏と、企業の長期的な戦略がいかに競争優位をもたらすかについて意見を交わしてもらった。
過去二回とも大いに盛り上がった本対談だがいよいよ本稿がラストとなる。その最後を飾るのが、Webベースの国産コラボレーションツールのパイオニアであり、国内グループウェア市場でトップシェアを誇るサイボウズの代表取締役社長、青野慶久氏だ。
共に組織でのコラボレーション支援ソリューションを開発・販売している日本とオーストラリア2カ国のIT会社社長が初体面。お互いの人となりや会社について紹介し、だいぶ打ち解けたところで、話題はエンジニア関するものへと移っていった──。
営業マン“ゼロ”で世界中に製品を販売!その秘密とは?
Mike氏:サイボウズさんには400人社員がいるということですが、そのうちエンジニアはどれぐらいいるのですか?
青野氏:社員のうち約60%がエンジニアになりますね。
Mike氏:それは一般的なIT企業と比べるとかなり多いですよね。うちの場合開発エンジニアが50%で、その他にテクニカルサポートのためのエンジニアが20%ぐらいでしょうか。
ちなみに、いわゆる「営業マン」と呼ばれる社員はどこにもいないんですよ。
青野氏:ええ!?営業マンがまったくいないんですか?本当に??それでどうやって製品を売っているのか気になりますね。
Mike氏:当社のビジネスモデルは、営業マンがどこかに出向いて製品を売るというものではありません。世界中の顧客がネットを通じて我々の製品のトライアル版を使ってみて、気に入ったら今度はネットで購入するというものです。そうなると、顧客にとって製品の魅力が大きいかどうかが決め手になりますので、エンジニアの数を増やして開発に力を注ぐというのが我々の基本方針なのです。
青野氏:顧客から“直接買いたい”という要望があったりした場合はどうしているのですか?
Mike氏:すべてオンライン販売でしか受け付けておりません。例外はないです。また、どんなに大企業の顧客であろうと値引きは一切しません。世界中どこの国でも企業でも、完全に同じ価格で提供しているのです。
日本のコラボレーションは“Web的”
──サイボウズとアトラシアン、国は違えどともにビジネス向けのコラボレーション/コミュニケーションツールを開発提供しているという共通点があるわけですが、それぞれの国のビジネスコラボレーション文化についてどのような見解をお持ちでしょうか。
青野氏:日本の場合は「オフィス」を舞台にしているのに対して、アメリカの場合は「個室」に入ってコラボレーションを進めることを好む、そこに違いが表れていると思いますね。なかでもアメリカのある大手IT企業なんか、全社員が個室で仕事をしていますから。対して日本の場合は1つのオフィスで大勢が働くのが一般的ですので、これはまさに「Web的」なコラボレーションと言えるのではないでしょうか。アメリカのコミュニケーション文化は電子メールがベースなのに対して、日本の場合は大きなオフィス内でのやり取りがベースなのである意味Webと似ています。
Mike氏:確かにその違いはありますよね。そしてそのような差によってコミュニケーションに対する考え方が異なってくるのでしょうね。
青野氏:はい。だからこそ、創業時にインターネットを使ったコラボレーションツールを日本企業向けに販売したのですが、とても好評で毎年ビジネスを拡大することができたんです。そんなわけで日本ではWebベースのコミュニケーションツールが受け入れられているのですが、オーストラリアやアメリカでも状況は変わってきているのではないですか。特に若手のビジネスパーソンの間では、Facebookなどのモバイルベースのコミュニケーションツールが主流になっていますよね。
Mike氏:その通りです。今ではコラボレーションやコミュニケーションのかたちが大きく変化していると思います。やはりSNSのようなツールはビジネスの現場にも大きなインパクトを与えていますね。
オーストラリアではITエンジニアが大人気職業!
──それぞれの国のITエンジニアが置かれた環境についてどう見ていますか。
青野氏:やはり日本のソフトウェア開発というのは、まだまだアジャイルではなくトラディショナルなウォーターフォール型が主流だと感じています。なので、当社のITエンジニアの環境はかなり日本的ではないかもしれませんね。まさにアジャイルですから。
なかでも私が危惧しているのは、日本の若い世代がITエンジニアになるのをあまり好まないことです。やはり徹夜続きで過酷な労働だと考えていて、クリエイティブな仕事だとは思ってもらえないのでしょう。
Mike氏:そうなんですか……。オーストラリアでは正反対で、ITエンジニアの人気はとても高いんです。仕事もよりどりみどりですし、プログラミングは子どもたちにとってとても魅力のある学習科目になっています。
青野氏:それは素晴らしいですね!やはりプログラミングができると異性にモテたりするんですかね。
Mike氏:いや、それはないかも……。やはり音楽ができる方がモテますね。
青野氏:ああ、それは日本も同じだ(笑)
Mike氏:あと、若手のエンジニアを育成することが、自分たちの会社だけではなく、国そして世界としても大事なので、プログラミング教育への支援にも力を入れています。オーストラリアのNational Computer Science Schoolへのサポート事業では、そこで学んだ生徒が当社の社員にもなっています。
青野氏:それは素晴らしいですね。うちでも22歳以下のITエンジニアの卵達を対象にしたプログラミングコンテストなどを支援していますが、目指すところは同じであることを感じます。
多様性と自立性、社員に信頼される会社の秘訣とは?
──最後に、経営者としてそれぞれ自分の組織に求めている価値観やカルチャーについて話してもらえますか。
青野氏:アトラシアンさんのコアとなっている価値観やカルチャーを「言葉」で表現するとどうなりますか。
Mike氏:5つありますね。1つ目がオープンであること、2つ目は正直であること、3つ目は建設的であること、4つ目はハートを持っていること、そして5つ目が、プレイ・アズ・ア・チームです。それぞれの言葉には、多様性を持ってそれぞれの社員が楽しく働きながら、個々の幸せを追求して欲しい、という願いが込められているんです。
青野氏:うちとこんなに近いカルチャーの会社は初めてですよ!。サイボウズでも多様性を大事にしながら、個々の社員が自分で問題をみつけて自分で動くという自立性に重きを置いています。そして、一番大事にしているのは、正直であることなんです。おかげで、当社の平均離職率は世間一般の5分の1の4%にとどまっています。
Mike氏:社員みんなが会社を信じているというわけですね。
青野氏:そう思います。最大6年間の育休をはじめとした柔軟な人事制度の拡充など、働きやすい文化をつくりあげてきた結果だと自負しています。この点については、5年後、10年後も変わることなく、社員に信じてもらえる会社でい続けたいですね。
Mike氏:私の会社と同じぐらいいい会社ですね(笑)。お互いに、社員、お客様、そして世の中のために、より良い組織づくりとコラボレーション/コミュニケーションの支援に努力していきましょう。
青野氏:もちろんです!