岡山大学は3月3日、農業生物資源研究所(生物研)との共同研究により、排卵後の卵胞が変化して形成され、妊娠の成立と維持に必要なホルモン分泌を司る器官「黄体(おうたい)」の急激な成長はこれまで黄体細胞の肥大に依存していると考えられてきたが、細胞の肥大のみではなく、細胞の増殖によっても成長することをウシにおいて発見したと発表した。
成果は、岡山大大学院 環境生命科学研究科 動物生殖生理学分野の奥田潔 教授、生物研 動物生産生理機能ユニットの作本亮介 主任研究員らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2013年12月27日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。
黄体は排卵後に形成され、妊娠の成立と維持に必須なホルモン「プロジェステロン」を合成・分泌する一過性の内分泌器官だ。妊娠が不成立だった場合、黄体は消滅(退行)し、次の排卵が回帰する仕組みだ。現在の畜産現場では、ウシの生産はほぼ100%が人工授精に依存している状況である。効率的なウシの生産のためには、効果的なタイミングで人工授精を行う必要があり、そのためにはホルモン製剤「プロスタグランジン(PG)」などの投与で用いて人為的に黄体を退行させ、排卵を誘起させる「発情回帰法」が必須という状況だ。
しかし、現在使用されているプロスタグランジン製剤は排卵後6日以降の黄体にしか作用を示さず、それ以前の活発な黄体の成長期では黄体退行を誘導する方法が確立されていない。そのため、排卵後5日までの期間は黄体機能を制御できず、生産性低下の要因となってることが、長年大きな課題として残されてきたのである。
今回の研究で黄体細胞の増殖が確認されたのは、活発な成長段階にある黄体のみであり、その後の黄体の成熟期においては増殖する黄体細胞は確認されていないという。また、成長期および成熟期の黄体細胞における細胞周期調節遺伝子の発現が調べられたところ、細胞周期の進行の促進に重要な役割を果たすタンパク質「サイクリン」が成長期に高い発現を示すこと、一方細胞周期の進行を阻害するタンパク質群「Cip/Kipファミリー」の発現が成熟期に高い発現を示すことが明らかになった。
なお細胞周期とは、細胞分裂した細胞が再び分裂を起こすまでの細胞の活動周期のことをいう。またサイクリンとは、細胞において細胞周期を移行させるためのエンジンとして働くタンパク質のことだ。「サイクリン依存性キナーゼ(CDK)」と結合して働く。さらにCip/Kipファミリーとは、サイクリン-CDK複合体に結合してその活性を抑制するタンパク質群のことである。
今回の成果は、黄体の成長期における黄体細胞の増殖と黄体形成過程のメカニズムを明らかにしたものであり、今後これらのメカニズムを詳細に調べることにより、成長期にある黄体機能を人為的に制御できる可能性があり、人工授精効率の向上に大きく貢献することが期待されるとしている(画像)。