東北大学は10月23日、高齢者64人を対象に無作為比較対照試験を実施した結果、4週間のサーキット運動トレーニングが、実行機能、エピソード記憶、処理速度など広範囲な認知機能を改善することを明らかにしたと発表した。
成果は、東北大 加齢医学研究所 スマート・エイジング国際共同研究センター兼同・大学 災害科学国際研究所の野内類 助教、同・川島隆太 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米エイジング協会発行の論文誌「AGE」に採択され、2014年2月頃に掲載号が発行される予定だ。
一般に記憶力や処理速度などの認知機能は、年齢と共に低下する。高齢期に認知機能が低下すると認知症などを患い、日常生活に多くの不具合を生じてしまう。そのため、高齢期でも認知機能をなるべく維持向上することが望ましいというわけだ。
一方、近年の高齢者における健康ブームから、サーキット運動トレーニングに取り組む高齢者が増えてきた。サーキット運動トレーニングは、運動する複数の人たちで輪(サーキット)になって、有酸素運動トレーニングと筋力トレーニングとを交互に組み合わせて行うもので(画像1)、一回30分という短時間でできることから高齢者でも取り組みやすく、筋力向上や生活習慣病の改善などの効果が得られることがわかっている。
また先行研究によれば、サーキット運動トレーニングを42週間継続することで記憶力が向上するという報告もある。しかし先行研究では、(1)もっと短期間でも認知機能は向上するのか、(2)記憶力以外の認知機能は向上するのか、については明らかにされていない。そこでこれらの不明点を解明するため、地域タウン誌の広告を通じて精神疾患、脳疾患、高血圧の既往歴のない健康な高齢者64人を募集する形で、今回の研究は実施された。
サーキット運動トレーニングを実施する「介入群」32名と、実施しない「非介入群」32名とに分け、「ダブルマスク・パラレル無作為比較対照試験」が実施された。無作為比較対照試験は、医療分野で用いられる根拠の質の高い研究手法である。
サーキット運動トレーニングの内容は、株式会社カーブスジャパンで開発された筋力トレーニングと有酸素運動とを30秒間隔で繰り返す方式が選択され、トレーニングの間隔・期間は、1回30分を週3回、それが4週間にわたって実施された。トレーニング開始前・終了後に介入群・非介入群に対して認知機能検査が実施され(画像2)、認知機能の変化が計測された形だ。
これらの試験の結果、介入群が非介入群よりも、実行機能(「ストループ検査」、「カテゴリー流暢性検査」)、「エピソード記憶(物語記憶検査)」、処理速度(符号検査、記号検査)の認知機能において改善することが見出されたのである(画像3)。
今回の成果より、高齢者でも4週間のサーキット運動トレーニングで広範囲な認知機能が改善することが判明。団塊世代が65歳を超えつつある日本では、今後急速な高齢者の増加が見込まれているが、サーキット運動トレーニングは高齢者でも取り組みやすいことから、今後の高齢者の認知症予防や認知機能リハビリなどへの応用が期待されるとしている。