キリンと東京大学(東大)は10月11日、細胞内温度計測用の蛍光プローブを開発、酵母細胞やほ乳類細胞の正確な細胞内の温度計測を実現することに成功したと発表した。

同成果は同社の基盤技術研究所ならびに東京大学大学院薬学系研究科の研究グループによるもの。

従来、細胞が有するさまざまな機能は、細胞の温度を密接な関係にあると考えられてきた。特に酒類などの発酵品の製造工程において、細かい温度調整により微生物の働きを制御する必要があるため、細胞の温度制御が重要事項となっている。また、医学分野においてもこれまでの研究から、がん細胞などの病態細胞は正常細胞と比較して高温であることが指摘されるようになっている。

東大は、これまでの研究からすでに蛍光プローブを用いた細胞内の温度分布計測の技術を実現していたが、細胞へ蛍光プローブを導入する際に特別な装置や技術を要する必要があるほか、微生物などの小さい細胞には利用しにくいという課題があった。

今回開発された技術は、その従来型細胞内温度計測用蛍光プローブを改良して細胞への導入を簡易にし、酵母細胞内の温度計測を可能としたもの。具体的には、蛍光プローブの構造内にプラス電荷を持った分子を組み込むことで、蛍光プローブを細胞懸濁液中に混ぜるだけで出芽酵母の細胞に導入できるようにしたという。

実験では、そうして細胞内に導入された蛍光プローブは細胞の温度変化に応答し、最高で0.09℃の微小な温度差を検出できることが確認されたほか、酵母細胞だけでなくほ乳類細胞にも適用できることなども確認されたという。

なお研究グループでは今後、この新型蛍光プローブを用いて発酵における酵母の細胞内温度変化について細かく調査し、発酵過程のさらなる理解を進めていく計画とするほか、同技術によって得られた知見を発酵品の生産に生かすことに加え、細胞の機能と温度との密接な関係を明らかにすることで、今後の生物学や医学の発展を促すことにもつなげたいとコメントしている。