大阪大学(阪大)は6月14日、生体内に存在する「マイクロRNA」の内、脳下垂体に多く存在する「miR-200b」と「miR-429」が排卵を起こすために必須の役割を果たしていること(画像1)をマウスを用いた実験で明らかにしたと発表した。
成果は、阪大微生物病研究所 附属遺伝情報実験センターの蓮輪英毅 助教、同・岡部勝 名誉教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間6月13日付けで米科学誌「Science」電子版に掲載された。
交尾翌朝の卵巣形態。正常に排卵が起こった場合は黄体(CL)が形成されるのに対し、miR-200b、miR-429欠損マウスでは排卵しないため、卵巣に黄体が形成されない。画像1(左):正常な状態。画像2(右):miR-200b, miR-429欠損 |
DNAの2重らせん構造を発見したフランシス・クリック博士により提唱された「セントラルドグマ」(DNA→RNA→タンパク質→生命現象)では、「タンパク質の情報を持つ」ものが遺伝子として扱われてきた。しかし最近になって、タンパク質をコードしていないジャンク(不要な)DNAと呼ばれてきた領域から「タンパク質にはならない」ノンコーディングRNAが出てきており、RNAのままで生命現象に関わっていると考えられるようになり、大きく変わってきている。
そのノンコーディングRNAの1種がマイクロRNAだ。今回、研究チームは精巣にあるmiR-200bとmiR-429の役割を明らかにしようとして、これらのマイクロRNAを持たないマウスを作製。すると、予想しなかった結果として、雌のマウスに排卵が起こらず不妊になったのである(画像2)。
その仕組みは、正常な状態ではこれらのマイクロRNAが転写因子「ZEB1」の産生量を減らすことにより、排卵に必要な「黄体形成ホルモン(LH)」が正常に分泌されるようにしているためであることがわかった。実はmiR-200bとmiR-429は脳下垂体にたくさん発現しており、雌のマウスにおいては、これらのマイクロRNAが排卵という生殖の原点ともいうべき重要な役割を果たしていたというわけだ。
今回の成果は、マイクロRNAが寄与する重要な生命現象を明らかにしただけでなく、以前はジャンクDNAと考えられていたノンコーディングRNAが、個体レベルで重要な機能を担っており、遺伝子疾患の原因にもなりえることが示された点が大きい。
また、ホルモンの分泌による排卵の調節機構は古くから詳細に検討されてきたが、そこにマイクロRNAという新しい因子が関与していることも明らかになった。正確な統計はないが、一般に臨床系の雑誌や教科書では女性不妊の3割程度が排卵異常に起因すると記されており、不妊症の原因の1つである排卵障害に新たな視点が加わったことになる。