科学技術振興機構(JST)は3月23日(土)~24日(日)の2日間、兵庫県立総合体育館(兵庫県西宮市)において「科学の甲子園」の全国大会を開催した。昨年に続き、2回目の開催となるもので、各都道府県の予選を勝ち抜いた47チームが集結。熱戦の末、愛知県立岡崎高等学校(愛知県)チームが初優勝した。
科学の甲子園とは?
春のセンバツ野球は浦和学院の優勝で幕を閉じたが、その開会式の翌日、甲子園球場にほど近い体育館において、もう1つの"甲子園"が開幕していた。
それが今回レポートする「科学の甲子園」である。野球の甲子園と同じく、出場するのは高校生。ただし当然ながら、勝敗を決めるのは野球ではなく、科学だ。戦いの場はテーブルの上、使うのは筆記用具や実験道具になる。
この大会の目的は、「科学好きの裾野を広げるとともに、トップ層を伸ばす」(JST)ことだという。まだ2回目の開催であるが、予選には全国で6,000名以上もの高校生が参加、その中から、47校、358名の生徒が全国大会に出場した。
科学の甲子園は、理科・数学・情報という、いわゆる理系の科目を対象に競技を実施し、優勝チームを決める大会である。いきなり「競技」と言われてもピンと来ないかもしれないが、これには筆記(1競技)と実技(4競技)があり、その総合得点で順位を競う。1チームは6~8人で構成し、筆記競技には6人、実技競技には各3人が出場する。
ここで注目したいのは、この大会は、単に「知識」を問うものではないということだ。たとえばセンター試験のように「正解」だけを求めるような問題であれば、教科書の丸暗記でも、ある程度は対応が可能だろう。ところが科学の甲子園の場合、問題によってはこの「正解」がない。むしろ自ら「課題」を見つけ出し、解決する、そんな能力が必要だ。
それは、筆記競技の配点(360点)よりも、実技競技の配点(各180点×4=計720点)の方が多いことからも明らかだ。これが科学の甲子園の特徴であるとも言えるが、科学技術の知識を総合的に活用できる能力、モノ作りの能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力など、幅広い能力が求められるのだ。
どの学校も優秀であることは間違いないが、総合力やチームワークが鍵になるから、必ずしも、高偏差値で知られた超有名校が勝つとは限らない。それが科学の甲子園の面白いところだろう。
さて、それでは具体的に大会の様子を見ていこう。今回、初日の午前中に筆記競技、午後に実技競技1と2、そして2日目の午前中に実技競技3と4が行われたのだが、筆記競技はプレスに非公開だったため、以下、実技競技の内容を中心にレポートする。
実技競技1「灘の酒」
市販の乾燥酵母とスクロース(ショ糖)を使って、アルコール発酵実験を行う競技である。競技時間は2時間。最初の50分間でアルコール発酵を行い、発生した二酸化炭素(CO2)を収集。続く10分間でアルコールを計測したあと、残りの1時間で、二酸化炭素濃度を測定し、実験レポートを作成する。
実験に使う材料は、乾燥酵母1g、スティックシュガー3g×10本、ミネラルウォーター80mlのみ。これを混ぜて発酵液を作り、組み立てた装置でアルコール発酵させるが、なるべく多く発酵させるためには、濃度や温度を最適にすることが重要となる。またレポート内容も総合的に評価されるので、実験結果が良かっただけでも駄目だ。
この競技は、外部から見ていても何をやっているのかイマイチ分かりにくいのだが、結果だけ紹介すると、最高得点だったのは徳島市立高等学校(徳島県)チーム。スポンサー賞として三菱電機賞を獲得した。
ところで、実技競技の1と2、3と4は同時間帯に行われるため、同じ生徒が掛け持ちすることはできない。また各生徒がどの競技に出場するのかは、事前に決めて提出してあり、問題を見てから、メンバーを変更することはできない。ちなみに実技競技1と4は競技の内容が事前公開されているが、2と3は当日公開である。
実技競技2「金平糖」
不規則な形状をしている金平糖の模型を使い、その表面積を求めるのが課題。各チームには共通の機材セットが提供されており、それを自由に使うことができる。どの機材をどう使うか、その選択がポイントだろう。
提供される機材は、方眼紙、トレース紙、ボンド、のり、油性マジック、筆、凧糸、粘土、マニキュア、ビーズ、電卓、ハサミ、カッター、ノギス、マイクロメーターなど30種類以上。また会場に備え付けの電子天秤を利用することもできる。
これを使って、どうやれば金平糖の表面積が算出できるだろうか? まずは読者の皆さんも考えてみてはいかがだろうか。
筆者が考えた方法はこうだ。まず何かにマニキュアを塗り、増加した重量を計測する。塗った面積で割れば、そこから単位面積あたりの増加重量が分かる。同じように金平糖にマニキュアを塗り、前後の重量差から増加分を調べれば、そこから面積を算出できる。表面にビーズを貼り付け、その増加重量から計算する方法でもいいだろう。
ただしこの方法では、マニキュアの塗り方次第で、誤差が大きくなることは容易に想像が付く。いかに同じ厚さで塗れるかが工夫のしどころだろう。ほかには、凧糸を隙間無く表面に貼り付け、その長さから計算する方法、小さく切った方眼紙を貼り付け、その枚数から計算する方法、などが考えられるようだ。
この競技の最高得点は、秋田県立秋田高等学校(秋田県)チームが記録。スポンサー賞として島津賞を獲得した。
実技競技3「君に届け! 熱いメッセージ!」
3軸加速度センサを内蔵するコントローラを使って文字入力を行い、その早さを競うものだ。入力する方法は自由だが、センサのデータから入力文字(アルファベット+記号の32種類)を判別するプログラムも開発しなくてはならない。どうすれば早く入力できて、それをどう効率よく実装するか。そこがポイントになる。
プログラム言語は、この競技のためだけに開発された「PLMAM1」を使用する。PLMAM1は、高校生が短時間で理解できるよう工夫されているインタプリタ言語だという。1つの文には、前半に条件式、後半に処理が記述されており、条件が真ならば処理が実行されるという仕様だ。文字コードの出力、バックスペース、LED点灯などは関数で用意されている。
プログラムを開発したあと、最後の10分間で、課題文の入力にチャレンジ。合図で一斉にスタートし、各チームの入力状況がリアルタイムで大型スクリーンに表示された。ここでダントツで早かったのが愛知県立岡崎高等学校(愛知県)チーム。早々にすべての文字を入力してしまい、主催者に「想定外」と言わしめた。
同チームは、コントローラを8方向(上下左右+斜め)に傾けることで文字を選択する方法を採用。ただ、8方向だと8種類の文字しか選択できないので、32種類に対応させるために、2回の操作で1文字を決定するシステムを実装していた。たとえば、1回傾けて「A~G」「H~N」など文字セットを選び、さらに1回傾けてその中から1文字を選択するわけだ。
ちなみに同チームは、英文で頻出する「the」や「and」などの単語も文字として割り当て、素早く入力できるよう工夫していたとのこと。今回は、課題文が日本語の歌詞で、ローマ字入力だったため、この機能は生かされなかったが、なかなか良いアイデアだ。
この競技では、文字入力の速度だけではなく、プログラムの完成度、入力方法の妥当性も評価され、配点は各60点ずつとなるのだが、文字入力で圧倒的なスピードを見せた同校が最高点も記録。シマンテック賞を獲得した。
実技競技4「クリップモーターカーF1」
指定された材料を使って「クリップモーターカー」を製作し、競争させるタイムレース。大会での製作時間は1時間だが、この競技の内容は事前公開されているので、各校とも、本番までに試作・試走を繰り返し、設計を固めておくことができる。
使える材料は、エナメル線、ゼムクリップ、単三乾電池、滑車、竹串、ネオジム磁石、輪ゴム、ストローなど。難しいのはモーターまで自作する必要があることで、ゼムクリップやネオジム磁石を使って、いかに強力なモーターを作れるかが勝負のポイントの1つだ。車体は、全長20cm、全幅20cm、全高10cm以下、車輪の数は4個と規定されている。
内容が事前公開されているとは言え、やはりモーターからすべて作るのは結構難しいようで、予選では動かないチームも続出。ただ、その一方で3mのコースを2秒台で走り抜けるチームもあり、学校によって、相当完成度に違いが見られた。
予選では2回走るチャンスがあり、そのベストラップの上位8チームが決勝レースに進出できる。予選でのトップは、岐阜県立岐阜高等学校(岐阜県)チームで、タイムは2秒13。2位は愛知県立岡崎高等学校(愛知県)の2秒69、3位は千葉県立東葛飾高等学校(千葉県)の3秒15で、7秒を切らないと決勝に進出できないという、なかなかの激戦である。
そして迎えた決勝レース。優勝したのは、予選トップだった岐阜県チームだ。タイムは2秒21だったが、事前の試作段階では1秒台を出したこともあったという。対する2位の愛知県チームは、「試作で2.6秒くらいで満足してしまった」と悔やんだ。岐阜県チームは、パナソニック賞を獲得した。
岐阜県と愛知県が飛び出したが、岐阜県が後半、一気に加速してぶっちぎりの優勝。とにかく速い |
惜しくも2位になってしまったものの、愛知県チームのモーターは、電池自体が回転するという、非常にユニークな仕組み(掃除の時間に思いついたという)。ちなみにこの車体、前方に"触覚"のようなものが付いているが、これはコースからはみ出さないようにするためのバンパーだという。デザイン的にもこだわった面白いマシンである。
優勝の要因は?
実技競技の結果についてはこれまで見てきた通り。一方、その前に行われた筆記競技については、筑波大学附属駒場高等学校(東京都)チームが最高得点を記録、講談社賞を獲得した。
そして総合成績は以下の通りだ。
優勝は、愛知県立岡崎高等学校(愛知県)チーム。同校は第1回大会では総合3位であったが、キャプテンの砂田佳希君(2年)は「昨年は悔しい思いをして、いろんな未練が残っていた。今年はそれを晴らすことができて、すごく嬉しい」とコメント。優勝の要因について聞かれると「準備段階でひらめくこと」とし、大会前の準備の重要性を指摘した。
JSTの中村道治理事長は同校について「総合優勝のほか、いろんな賞を総なめにする活躍だった。昨年の悔しい思いをバネにしたということだったが、そう思って本当に立派な成績をあげられるのはすごいこと。一人一人の能力に加えて、それをうまく繋ぎ合わせるチーム力がこういう結果に結びついたのでは」と評価。
さらに「我が国の将来は、今回参加してくれたような若い世代が担っていく。将来、ノーベル賞もこの中から出てくるだろう。大きな産業も興してくれるだろう。優れた教育者になってくれるだろう。そういう思いを込め、JSTとしてはこれからもこの大会に力を入れていきたい」と述べ、今後の生徒達の活躍に期待した。
なお、第3回大会の実施もすでに決まっている。全国大会に出場するためには、まずは各都道府県の代表になる必要があるので、地元の代表選考の日程などをチェックして欲しい。ぜひ"甲子園"を目指してみてはいかがだろうか。