江戸時代中期の絵師・工芸家、尾形光琳(1658-1716年)の代表作の一つ「八橋図屏風」(ニューヨーク・メトロポリタン美術館所蔵)は、全面に張られた金箔(きんぱく)を下地に描かれていることが、情報通信研究機構の「テラヘルツ波」を使った透過調査で分かった。
テラヘルツ波は、周波数帯が0.1- 10 THz(テラヘルツ、1テラは1兆)の、電波と光との境界に位置する電磁波で、金属や水は透過しないが、紙や布、木、陶器、プラスチックなどは透過する。X線透過撮影や赤外線-紫外線の反射測定では困難な絵画の下地層の状態を非破壊・非接触で観測できる利点がある。
情報通信研究機構は今年3月、メトロポリタン美術館と共同で、「八橋図屏風」(1710年ごろ制作)のテラヘルツ波透過調査を同館の収蔵庫内で行った。その結果、燕子花(かきつばた)や橋が描かれた部分の下にも金箔が張られ、屏風全面に金箔下地が施されていることが分かった。使われている絵の具は、顔料の粒度が細かいものから粗いものへと重ねられ、その厚さは約0.6ミリメートルほどであることも判明した。また、断面の観察から、金箔の表面部分に欠損があっても、金箔下の内部の紙には影響が及んでいなかった。
尾形光琳が「八橋図屏風」の前に同じテーマで描いた「燕子花図屏風」(1701年ごろ制作、国宝、根津美術館所蔵)は、近年の修復の際に、描かれた燕子花の下に金箔は無いことが報告されていることから、これら2作品は違った技法で制作されたことも明らかになったという。
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