ある種の鉄系化合物をワインや日本酒などの酒の中に入れて加熱すると超電導体に変化する現象を、物質・材料研究機構ナノフロンティア材料グループの高野義彦グループリーダーらが2年前に発見した。その後の研究で、酒に含まれるリンゴ酸やクエン酸、Β(ベータ)-アラニンなどの有機酸が超電導を誘発することが分かった。新しい超電導材の開発につながるのではないかという。

2年前の現象発見について、高野グループリーダーが「サイエンスニュース」(注)に語ったところによると、鉄系超電導体の研究中に「鉄・テルル・イオウ化合物」のサンプルを机の上に放置していたら、超電導体に変化していることに気が付いた。空気中の水分や酸素が影響したものと考え、水素や酸素を含むエタノールに試料を浸してみたが、超電導体になるにはなったが、長い時間がかかり、あまり変換効率もよくなかった。そこで「同じエタノールのお酒では?」と6種類の酒に浸し、それぞれ沸騰しないように70℃の温度で一昼夜(24時間)加熱したところ、8K(ケルビン)以下の温度で超電導体になった。試料全体における超電導を示す体積割合(超電導体積率)は、赤ワイン(62.4%)、白ワイン(46.8%)、ビール(37.8%)、日本酒(35.8%)、ウイスキー(34.4%)、焼酎(23.1%)の順で高いことも分かったという。

今回の研究で、高野グループリーダーらは、慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)の佐藤暖特任助教らの協力を得て、数百種類ものイオン性の低分子を同時に定量できる「キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析装置(CE-TOFMS)」で、6種類の酒に含まれる成分を分析した。その結果、220種類の低分子の定量ができ、濃度と超電導体積率とを比較すると、10種類の物質で強い相関を示した。

そのうち特に相関の強いリンゴ酸、クエン酸、Β-アラニンについて、赤ワインと同濃度になるよう溶液を調整し、鉄・テルル・イオウ化合物の試料を浸して70℃で24時間加熱した(煮た)ところ、確かに超電導が誘発された。さらに、試料を煮た後の溶液を「誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)」で定量したところ、鉄イオンが溶け出していることが分かったという。これらの有機酸は金属イオンを取り込む性質(キレート効果)をもつことから、高野グループリーダーらは、有機酸が試料の過剰な鉄を除去することで、超電導を誘発するものと結論づけた。

超電導体は、電気抵抗がゼロの状態で電気を流すことができ、エネルギーのロスなく輸送・貯蔵が可能となるので、将来の環境エネルギー材料として注目されている。今回の研究は、鉄系超電導体の発現メカニズムや新物質の探求、超電導線材の応用開発などにつながるものと期待される。

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