テルモは、近年開発を進めてきた細胞シートによる心筋再生医療について、国内で治験を開始すると発表した。

この取り組みは、先端医療開発特区「スーパー特区」に選定されているもの。スーパー特区構想は、国の科学技術政策として創設され、革新的技術の開発を阻害している要因を克服するために、規制担当部局との協議などを試行的に行なう「革新的技術特区」だ。

「細胞シートによる再生医療実現プロジェクト」(研究代表者:東京女子医科大学 岡野光夫教授)もその1つで、心臓を対象とした再生医療は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトとして大阪大学の澤芳樹教授が開発を進め、すでに同大にて臨床研究を実施。テルモは、この臨床研究を治験のステージに進める役割を担う。

心不全は心臓の機能が低下して必要な血液量を送れなくなった状態であり、重篤な場合には、補助人工心臓の装着や心臓移植が現在の治療の選択肢だ。平成20年(2008年)の日本における患者数は約23万人、死亡数は約6万人で、年々増加傾向にある。近年の薬物療法や外科治療の進歩にも関らず重症化すると回復が難しく、新たな心不全治療方法の開発が望まれている。

テルモの研究施設での細胞培養の様子

テルモが研究開発を進めている心筋再生技術は「骨格筋芽細胞シート」によるもの。患者の大腿部より筋肉を採取し、これに含まれる骨格筋芽細胞を体外で培養してシート状にし、傷んだ心筋の表面に貼ることで重症心不全の病態改善が期待できるという。

この細胞は、患者自身から採取するので拒絶反応や感染の危険性が低く、体外での培養が可能な点が特徴。

テルモでは心筋の再生医療について2002年から研究に取り組んでおり、細胞シートについては2007年から開発に着手。今回の治験により、将来の実用化を目指していくという。

骨格筋芽細胞シート

今回の治験は、虚血性心疾患による重症心不全患者を対象として行なわれる。まず「探索的試験」を大阪大学など3施設で実施。6症例に対し、移植後6カ月(フォローアップ2年間)を評価期間とする。次に、探索的試験の結果をもとにデザインを確定し、症例数を拡大して「検証的試験」を実施する予定だという。

具体的には、患者から採取した骨格筋から、骨格筋芽細胞を培養・凍結保存し、シート状にして移植手術、という流れで進められるとのこと。

筋肉採取から移植への流れ