慶應義塾大学(慶応大)は3月5日、ビタミンEの骨代謝における役割を解明し、適量の摂取はもちろん問題ないが、限度を超えた摂取は逆に骨粗鬆症を招く危険性があると発表した。成果は、慶大医学部腎臓・内分泌・代謝内科の竹田秀医学部特任准教授、伊藤裕教授らと、東京医科歯科大学、東京大学、大阪医科大学による共同研究グループによるもので、詳細な研究内容は米科学誌「Nature Medicine」オンライン版に米国東部時間3月4日に掲載された。
骨粗鬆症とは「骨の強度の低下によって、骨折のリスクが高くなる骨の障害」のことをいう。国内の75歳以上の女性の2人に1人は骨粗鬆症であるといわれ、高齢化の進行に伴い、国内の骨粗鬆症の患者数は1300万人に達すると考えられている。また、骨粗鬆症によって発生する骨折は寝たきりの原因の第2位であり、その病態の解明が求められている状況だ。
骨では、骨を作る「骨芽細胞」と骨を壊す「破骨細胞」(実際には骨を壊すというより、骨の吸収を行う細胞で、成熟すると多核化することが知られている)が常に働き、骨の新陳代謝を行なっている。この骨芽細胞と破骨細胞の新陳代謝(骨代謝)のバランスが崩れると、骨粗鬆症が発生するというわけだ。
破骨細胞は成長するとともに細胞同士が融合し、巨大化する(多核化する)ことが特徴だが、その機序については未だ不明な点が多い。ビタミンは骨の強度と深く関わりがあることが知られており、中でもビタミンDは骨粗鬆症の治療に広く使用されている。ビタミンEはアンチエイジング効果があると考えられており、薬剤、サプリメントとして普及している具合だ。しかし、ビタミンEの骨への影響についてはよくわかっていなかったのである。
共同研究グループは今回の実験で、血中のビタミンE濃度が極めて低い、ビタミンE欠乏モデルマウスの骨の解析を行った。このモデルマウスは、主要なビタミンEである「αトコフェロール」の輸送タンパクである「αトコフェロールトランスファープロテイン(αTTP)」を欠損したマウスである。
すると、このマウスでは破骨細胞の大きさが小さく、うまく骨を壊すこと(骨の吸収)ができていないことが判明。そのため、このマウスでは全身の骨の量が増加していたのである。
続いて、破骨細胞を培養してビタミンEを添加すると、破骨細胞が巨大化して骨を吸収する能力が亢進した。これは、ビタミンEが破骨細胞の巨大化に必要なタンパク質の産生を誘導することが理由であることを証明したものである。
さらに、正常マウスと正常ラットにヒトがサプリメントとして服用しているビタミンEに相応する量のビタミンEを添加したエサを8週間投与すると、破骨細胞による骨の吸収が亢進し、骨量が減少し、骨粗鬆症を発症した(画像1・2)。
以上の結果より、ビタミンEは破骨細胞を巨大化することで骨の吸収を促進すること、ビタミンEの摂取量が多いと骨粗鬆症を引き起こす可能性があることを明らかにしたのである。
今回の研究は、今まで不明であったビタミンEの骨代謝への影響を明らかにしただけでなく、ビタミンEを含む薬剤やサプリメントの過剰摂取が骨粗鬆症を引き起こす危険性があることを証明した点で画期的な発見であると、研究グループはコメントした。
この結果を踏まえて、サプリメントとして最も人気のあるビタミンEの過剰摂取を防ぎ、上手に摂取することが、骨粗鬆症の予防に重要であると考えられるという。また、今後は骨の健康維持の観点を踏まえて、ビタミンEの指摘摂取量を検討することが望まれるとしている。
竹田特任准教授にお話を伺ったところ、国内で販売されているビタミンEを含んだサプリメントを、説明の通りに適量を守って飲んでいる分には、安全であるということである。よって、慌てて飲むのをやめたりする必要はない、ということだ(適量を守っていれば1日数100mgの摂取であり、厚生労働省が定めた1日の上限800~900mgを超えることはない)。
ただし、そうした注意書きを守らず、通常の3倍も4倍も摂取したり、米国産の多量にビタミンEを含んだサプリメントを過剰摂取して1日に1000mgを超えるような状況を続けていると、特に影響を受けやすい高齢の女性では、骨粗鬆症が進んでしまう危険性もあるという。よって、「飲めば飲むほどいい」と思い込んで過剰な摂取をしてきた人は適量を守ってほしい、ということであった。