ご覧いただいたように、既存のWeb技術だけでもすでに非常に高機能なWebアプリケーションが作成できる。しかし、ご存知のとおり、HTML5関連仕様は現在も次々と策定されている。では、Web標準をリードするメンバーは、どのようなビジョンを描いて仕様策定に取り組んでいるのだろうか。
Ellison-Taylor氏によると、W3Cでは大きく3つの分野に注力しているという。
1つは、メールやカレンダーなど、日常的に使用するWebアプリケーションで高い操作性を実現すること。こちらは、PCのネイティブアプリケーションと同等の操作性を確保することが、とりあえずの目標になるという。
もう1つは、3Dグラフィクスやオーディオなど、最新のハードウェアを活かせる環境を用意すること。これは、ゲームなどのエンターテイメント性の高いアプリケーションを意識したものだ。
そして最後は、大規模で複雑なWebアプリケーションを支えるプラットフォームを構築すること。こちらはユーザーの目に触れる機会は少ないかもしれないが、開発効率を高めるうえで重要な取り組みだ。
もちろん、標準化の本来の意義としては、さまざまな種類のWebブラウザを跨って同じインターネット体験を提供できるようにする点にある。Ellison-Taylor氏は、その点についても強調したうえで、「すでに何十億というインターネットユーザーがいて、何種類もの端末/Webブラウザが存在する現状を考えると、標準化はやはり欠かせない作業。標準化団体で次世代の仕様を検討/策定していくことで、ユーザーはWebブラウザが替わっても高度な機能を同じように利用できるようになる。こうした活動は、Webアプリケーション開発者からすれば、先進性と汎用性を同時にもたらしてくれる"一挙両得"の取り組みと言える」と説明した。
次のフィールドはリアルタイム・コミュニケーション
では、今後の注目仕様としてはどのようなものがあるのか。エンターテイメント性の高いものを中心にピックアップをお願いしたところ、氏は「WebGLのようにインパクトの強いものはそうないが、Web IntentsやAudioのように細かい機能をつなぎ合わせた仕様が注目だろう」との見解を示し、その典型例として「Web Real-Time Communications」を挙げた。
Web Real-Time Communicationsは、その名のとおり、Face to Faceのリアルタイム・コミュニケーションを実現するための仕様になる。氏は、「現在も仕様検討中で詳細を語れる段階ではない」と前置きしたうえで、「チャットにビデオやオーディオの機能を追加したようなものになる」と概要を紹介した。
さらにEllison-Taylor氏は、Google Translateの例で紹介したSpeech機能についても言及。タグを1行追加するだけでWebアプリケーションに音声入力機能を追加できるという簡便さを強調し、「開発者からも非常に好評」と付け加えた。
開発効率向上につながる機能にも注目
また、Ellison-Taylor氏は、開発効率向上につながる技術についても触れた。
注目仕様としては、幅や高さの指定に計算式を組み込める「CSS Calc」、コンポーネントの再利用につながる「Shadow DOM」、さらには改善案を検討中の次期JavaScriptなどを挙げる。これらを利用することで、「大規模なものやネイティブアプリに近いWebアプリケーションの開発が容易になる」(Ellison-Taylor氏)という。
加えてEllison-Taylor氏が言及したのが、Chromeが提供している開発支援ツールだ。その機能は数百種類に及ぶと言い、ユーザー機能に劣らぬほど活発に開発が進められている。Ellison-Taylor氏は、「Chromeは非常に魅力的なプラットフォームで、Googleへの入社を決めた大きな動機にもなっている」と自らがファンの1人であることも明かした。
なお、Chromeの開発者向け機能の開発方針については、「利用者の意見を取り込むかたちで改善を進めている」とし、この1年間の成果として、パフォーマンス診断機能を使いやすくしたことや、性能の良いプロファイラーを導入したことなどを挙げる。また、現在は「Chromeと他の環境の間で開発ツールを相互に利用するためのプロトコルの開発にも取り組んでいる」とし、具体例としてAdobeのデザインツールと連携できるようになるといったビジョンを紹介した。
Chromeウェブストアのおすすめアプリは?
そのChromeにおいて高い関心を集めているのが、Chromeウェブストアだ。
米国では課金機能もリリースされており、スマートフォンのマーケットプレイスと同様、アプリケーションを作成して販売することもできる。Googleでも力を入れて推進しており、ユーザーのインターネット体験を向上させるプラットフォームとしてだけでなく、開発者の新たなマネタイズ手段としても確立していきたい考えだ。
開発チームでは現在、プロファイル機能の強化に取り組んでいるという。具体的には、複数のアカウントを切り替えられるような機能を開発しており、近いうちに追加される予定という。
せっかくなのでEllison-Taylor氏には、Chromeウェブストアに登録されている人気アプリケーションの紹介もお願いした。
これに対して氏は、「膨大な量があるうえ、好みもあるので簡単には挙げられない」と答え、自分で普段利用しているものとして、Google ドキュメントやGmail、YouTubeなどを紹介。さらに、Angry Birds、TweetDeckなどの定番アプリや、The New York Timesのアプリケーション、Google+への投稿をTwitterにも展開するChrome エクステンションなどをピックアップした。
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インタビューでEllison-Taylor氏が何度も強調していたのが、ここで紹介した仕様や機能も近い将来、変更になる可能性がある点だ。HTML5関連仕様は、現在も活発に議論が進められている。Chromeに関しては、コア機能をオープンソースコミュニティで開発しており、1週間も経てば新たな機能が加わるという状況だ。気になった方は、ぜひともソースをあたり、最新情報をチェックしてほしい。
果たして数年後のWebアプリケーションがどのようなかたちになっているのか。進化の過程も含めて、楽しみながら動向を追っていきたい。